6.5 第1回「ペルシア湾岸地域を取り巻く国際情勢と海洋の安全保障」研究会
- その他の行事
- 公開日:2017/06/12
1.研究会実施目的
中東調査会は、会員・非会員に向けて総合的な中東情勢の知見を提供するため、また、中東調査会と中堅・若手の専門家との交流・意思疎通の拡大と緊密化を図るため、以下の研究会を開催します。
2.研究テーマ
ペルシア湾岸地域を取り巻く国際情勢と海洋の安全保障
3.研究プロジェクト概要
ペルシア湾岸地域の国際情勢について、海洋の安全保障の観点から調査研究を行う。定例研究会を開催し、研究成果については2018年1月末発行の『中東研究』第531号において特集を組んで論文を掲載するほか、2018年2-3月に連続講演会を実施する。
4.プロジェクト実施の背景
ペルシア湾岸地域を取り巻く国際環境は近年、急速に変化している。2011年の「アラブの春」は中東地域に国内・国際紛争をもたらし、地域覇権を争うサウジアラビアとイランがシリアなど各地の紛争にそれぞれ介入するなかで対立を先鋭化させていった。両国の対立は2016年1月に外交関係の断絶に至り、更にバーレーンやスーダン、ジブチといった周辺諸国がサウジと同調してイランとの外交関係を絶っている。2015年から続くイエメン紛争では、2016年に入り紅海やバーブ・マンデブ海峡を航行する船も攻撃の対象とされるようになり、俄かに国際的なシーレーンの安全についても危惧されるようになった。
諸外国の湾岸政策を眺めてみると、各国は湾岸地域への関与を強める方向に動いている。しかしそれぞれの思惑が異なることから、関与の方向性は全く一致していない。米国ではオバマ政権の下、中東への軍事的関与が停滞したが、外交面では2015年7月にイラン核合意を成立させ、湾岸地域の安全保障秩序を大きく変えようと試みた。しかし、2017年1月に成立したトランプ政権はこれを強く批判し、ミサイル開発やテロ支援を継続するイランに対して軍事的措置が選択肢にあることを示唆する言動を繰り返している。他方で、シリア紛争に深く介入するロシアは中東での存在感を高めており、イランの軍事基地からシリア空爆を行う、長年凍結されていたS-300ミサイル防衛システムの引き渡しを完了させるといった動きを見せている。トランプ政権下での米国との関係悪化を予見するイランはロシアへの接近を進めており、本来安保理での承認を必要とする戦闘機のロシアからの購入を検討している。
中国の「一帯一路」構想あるいは真珠の首飾り戦略によるインド洋への進出は、近年に至り西端の湾岸地域にも到達しつつある。2016年1月には習近平・国家主席がサウジ、エジプト、イランを訪問し、同地域がこの構想に含まれることを改めて内外に示した。また、中国は2016年5月にオマーンのドゥクム港の開発に3.7億ドルの投資を決定したが、これは将来的に中国の艦船が寄港できるようにする意図があると指摘されている。一方、中国のインド洋・湾岸地域進出を警戒するインドは、イランやUAEへの接近を強化しており、同じく5月にイランのチャーバハール港の開発に5億ドル投資することを決定、中国が投資するパキスタンのグワダル港と競合させようとしている。
こうした湾岸地域を巡る情勢の変動、域外大国の関与の拡大は、湾岸地域に原油輸入の8割を依存する日本にとって多大な影響を与えうる。日本はソマリア沖の海賊対処のために護衛艦と哨戒機を派遣しているが、2011年には戦後初となる自衛隊の海外拠点がジブチに開設された。さらに2015年9月に成立した平和安全法制の審議の過程では、集団的自衛権が日本周辺の事態以外に適用される事例として、ホルムズ海峡が機雷で封鎖された場合について挙げられている。また、日本は2015年10月に「日・イラン協力協議会」を設置、2017年3月に「日・サウジ・ビジョン2030」を策定するなど、湾岸地域との協力関係を多角化、深化する方向性を打ち出している。同地域の情勢を総合的に理解し、関係各国との意思疎通を図る土台を構築することは、日本にとって急務といえる。
5.第1回研究会概要
日時:平成29年6月5日(月)
場所:中東調査会
時間:16時~18時
出席者:今井宏平(アジア経済研究所研究員)、栗田真広(防衛研究所研究員)、小泉悠(未来工学研究所研究員)、溝渕正季(名古屋商科大学准教授)、村野将(岡崎研究所研究員)、八塚正晃(防衛研究所研究員)、中東調査会:金谷、村上
主な内容:
・研究プロジェクトの主旨およびテーマについて説明。今後のスケジュール、進め方について確認した。
・テーマであるペルシア湾岸地域を取り巻く国際情勢について、研究会運営担当である村上から問題意識の説明を行い、各研究委員と問題意識のすり合わせを行った。
以上