11.15 中東情勢講演会(柿崎正樹、テンプル大学准教授「エルドアン大統領とトルコ政治史」)
- 講演会の報告
- 公開日:2017/11/17
2017年11月15日(水)、フォーリン・プレスセンター「会見室」にて、柿崎正樹(テンプル大学ジャパンキャンパス准教授)をお招きし、中東情勢講演会を開催しました。
講 師:柿崎 正樹 (テンプル大学ジャパンキャンパス准教授)
演 題:「エルドアン大統領とトルコ政治史:国民のリーダーは誰か?」
(講演会要旨)
これまでのトルコの政治史観は、世俗主義を基本とし、アタトュルクに代表される軍部が中心となって描かれてきた。しかしエルドアン大統領は、こうした政治史観に反論する姿勢を見せている。この姿勢が、2017年7月16日に実施された国民投票の翌日、エルドアン大統領が3名の政治家の聖廟等を訪問したことに示されている。これらの政治家は、イスラームの価値観などを重視したこと、軍部と衝突、軍の介入を受けて失脚したことで共通している。彼らは軍と対立したという点で、これまで低い評価を受けてきた。エルドアン大統領は、トルコ政治史を読み替える中で、彼らを民主主義の擁護者・殉教者、国民の代表者と捉えて、自らを彼らに続く民主化闘争の後継者と位置付けている。
さらにエルドアン大統領は、国民投票の翌日、セリム1世の霊廟を訪問した。この訪問には、トルコがイスラーム世界もしくはスンナ派世界の中心であり、またリーダーシップを取るべきとの意気込み、ないしは認識が反映されていると考えられる。
こうしたエルドアン大統領の認識は、大統領制導入の正当化や、社会教育政策の改正などに現れている。大統領制への移行は制度面での改革であるが、エルドアン大統領は国民意識の変化をも見越して「敬虔な世代」の育成をも重視している。
与党の公正発展党は2019年の大統領選挙に向けて人事等組織の刷新に力を入れている。また、党執行部は、今後どれだけ国民から支持を集められるかに関心を寄せている。
(質疑応答では、クーデター未遂事件の主体やトルコの対外的な姿勢に関する質問などがあった。)
今回の報告の一部は、9月に発行された『中東研究』530号にて、「エルドアン大統領の歴史認識――ケマリズム史観への挑戦」として、柿崎先生にご執筆いただきました。あわせてご参照いただければ幸いです。
【講師略歴】
柿崎 正樹(かきざき・まさき)
テンプル大学ジャパンキャンパス准教授。トルコの中東工科大学政治行政学部修士課程修了後、米国ユタ大学政治学部にてPhD取得。ウェストミンスター大学非常勤講師、神田外語大学非常勤講師、上智大学非常勤講師などを経て、2015年より現職。2009年より(一財)日本エネルギー経済研究所中東研究センター外部研究員。