中東かわら版

№39 モロッコ:ポリサリオ戦線のムハンマド・アブドゥルアジーズ書記長が死去

 5月31日、モロッコの「南部諸州」、または西サハラの独立運動を目指すポリサリオ戦線の指導者、ムハンマド・アブドゥルアジーズ書記長が68歳で死去した。肺がんを患っていたとされる。1976年からポリサリオ戦線書記長を、1982年から「サハラ・アラブ民主共和国」(ポリサリオ戦線を主体とする西サハラの亡命政府)の大統領を務めていた。

 ポリサリオ戦線はアブドゥルアジーズ書記長の死去を受け、40日間の服喪を発表した。西サハラの独立を支持し、ティンドフにポリサリオ戦線の活動拠点を提供しているアルジェリアは1週間の服喪を発表し、大統領をはじめ諸閣僚・諸政党が弔辞を発表した。「南部諸州」の主権を主張するモロッコでは、独立運動を批判する論調の中で同氏の死去が報じられている。その他、潘基文国連事務総長、米国、EU議会の西サハラ住民支援グループ、サハラ・アラブ民主共和国を国家承認しているサブ・サハラ諸国や一部のラテンアメリカ諸国からも弔辞が寄せられた。

 ポリサリオ戦線は、同組織の基本法第49条に基づき、緊急会合で次期書記長が正式に決定されるまで、サハラ国民議会(サハラ・アラブ民主共和国の立法機関)のハトリー・アドゥーフ議長を暫定書記長に任命した。

評価

 約40年間の独立運動のなかで、モロッコとポリサリオ戦線の停戦、国連西サハラ住民投票ミッション(MINURSO)の創設(1991年)など、西サハラ住民の自決に向けていくつかの進展は見られたが、その後は住民投票の有権者選定方法をめぐるモロッコ・ポリサリオ戦線間の対立から、西サハラ問題は膠着状態が続いている。さらに、今年4月には、潘基文国連事務総長がアルジェリアの西サハラ住民難民キャンプを訪問した際に同問題をモロッコの「占領」と表現したために、憤慨したモロッコ政府がMINURSOスタッフの国外追放に踏み切り、モロッコと国連の関係がこれまでになく悪化している。

 こうした西サハラ問題の膠着状態とモロッコ・国連関係の悪化という状況において、長年の独立運動を率いてきた指導者が死去したことは、西サハラ問題の今後の展開に少なからず影響を及ぼすだろう。ポリサリオ戦線の若手には住民投票の無期限延期に不満を募らせ、武装闘争も辞さないとするグループがいる。他方、同組織を支援するアルジェリアは、ブーテフリカ大統領の事実上の不在とポスト・ブーテフリカ体制への途上にあり、西サハラの住民投票に積極的なイニシアティブをとれる状況にはない。住民投票に向けた推進力が失われた現状でポリサリオ戦線のカリスマ的指導者が死去したとなれば、ますます推進力が失われるか、若手グループが暴力化する可能性もある。

(研究員 金谷 美紗)

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