中東かわら版

№4 レバノン:レバノンはアメリカとイラン間の「停戦」に含まれない

 2026年4月8日にアメリカとイランとが合意したとされる2週間の「停戦」は、双方がその条件やこれまでに上げた軍事・外交的成果についての認識で著しく異なるものだった。多数の齟齬の中で最も顕著だったのが、レバノンでの戦闘を「停戦」の範囲に含むか否だった模様だが、イスラエルは「停戦」合意の発表直後からレバノンをその範囲に含まないと主張し、近年稀にみる規模でレバノン全域を攻撃した。これにより、100カ所以上が爆撃され、死傷者数は数百人規模に達した。

 レバノンが「停戦」に含まれるか否かについては、当事者のイラン、「仲介国」のパキスタンが「含まれる」と主張しているのに対し、アメリカはトランプ大統領、バンス副大統領が相次いで「含まれない」との認識を主張した。特に、バンス大統領は「イラン側がレバノンが停戦に含まれると誤解した」と表明した。国際的には、フランス、エジプト、カタルなどがイスラエルを非難した。

 ヒズブッラーは「停戦」合意発表当初、「停戦」の公式な発効を待つとの立場で、イスラエルへの無人機・ミサイル攻撃を控えていた模様だった。しかし、イスラエルからの攻撃を受け、「当然かつ合法である、占領に抵抗する権利」を確認する旨の声明を発表し9日未明に入植地に対するロケット弾攻撃を行った。

評価

 イスラエルによるレバノン攻撃に対する各国の態度は、アメリカが「放任・支持」、その他の諸国は非難はするもののこれを抑制するための手段を一切講じない「傍観」という、これまでの紛争での立場を踏襲したものとなった。問題は、過去40日間の戦闘の主要な当事者であるとともに、この間ヒズブッラーなどの「抵抗の枢軸」陣営の諸派とある程度連携してきたイランの反応だろう。2023年以降の紛争で「抵抗の枢軸」陣営は壊滅状態に陥り、少なくともアメリカ・イスラエルによるイランへの直接攻撃を抑止する機能は喪失した。しかし、今般の戦闘で見られたように、「抵抗の枢軸」陣営の諸派が一定の程度で連携し、個々の構成要素がアメリカ・イスラエルとの紛争や対立の中で利益の最大化・損害の最小化を図る枠組みとしての意義は多少なりとも残存していたことが示された。「抵抗の枢軸」陣営の諸当事者が、ほかの当事者と運命を共にするような覚悟で紛争に参加する可能性は考えられない。しかし、イスラエルによるレバノン攻撃に対する実質的な「抵抗」をしないまま個々の利益に沿って現下の「停戦」やそれに基づく協議を進めることは、「抵抗の枢軸」の大義名分・正当性の完全な放棄と、諸当事者の威信や信用の失墜に直結することになるだろう。

(特任研究員 髙岡 豊)

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