№24 クウェイト:首長による議会解散、憲法停止、新内閣の発足
- 2024クウェイト湾岸・アラビア半島地域
- 公開日:2024/05/15
2024年5月10日、ミシュアル首長はテレビでの演説で、議会の解散と憲法の一部停止(最長4年)を宣言した。これによって憲法改正や組閣といった基本的な行政権が、当面の間、国会から首長及び内閣に移る。これを受けて12日には、アフマド・サバーフ新首相の下で以下の通り組閣が発表された。同首相が4月15日に任命されて以降、初の組閣となる。なお皇太子は依然として任命されていない。
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役職 |
氏名 |
1 |
首相 |
★アフマド・アブドッラー・アフマド・サバーフ(王族・国王の甥、1952年生、元通信相・保健相・石油相・情報相等) |
2 |
第一副首相 国防相、内相 |
ファハド・ユースフ・サウード・サバーフ(王族) |
3 |
副首相 内閣担当国務相 |
★シャリーダ・アブドッラー・マウーシャルジー(元通信相・内閣担当国務相・司法相・イスラーム事項相等) |
4 |
副首相 石油相 |
イマード・ムハンマド・アブドゥルアジーズ・アティーキー |
5 |
情報・文化相 |
アブドゥルラフマーン・バダーフ・ムタイリー |
6 |
保健相 |
アフマド・アブドゥルワッハーブ・アウディー |
7 |
財務相 経済・投資担当国務相 |
アンワル・アリー・アブドッラー・ムダフ |
8 |
教育相 高等教育・科学研究相 |
アーディル・ムハンマド・アブドッラー・アドワーニー |
9 |
外相 |
アブドッラー・アリー・アブドッラー・ヤフヤー |
10 |
公共事業相 都市村落相 |
ヌーラ・ムハンマド・ハーリド・マシュアーン ※女性 |
11 |
司法相 ワクフ・イスラーム事項相 |
★ムハンマド・イブラーヒーム・ムハンマド・ワスミー(クウェイト大学法学部准教授) |
12 |
商工相 通信担当国務相 |
★ウマル・サウード・アブドゥルアジーズ・ウマル(元Zain Kuwait CEO) |
13 |
電気・水・再生可能エネルギー相 住宅担当国務相 |
★マフムード・アブドゥルアジーズ・マフムード・ブーシャフリー(元MIT客員研究員他) |
14 |
社会・労働・家族・子供事項相 青年担当国務相 |
★アムサール・ハーディー・ハーイフ・フワイラ(クウェイト大学准教授) ※女性 |
出所:クウェイト国営通信の情報を元に筆者作成
評価
立法権を有する民選議会が存在するクウェイトは、とりわけ王制諸国からなる湾岸地域にあって、民主主義国家としてのプレゼンスを維持してきた。一方、国内では政府と議会が恒常的に対立して政治決定プロセスが進まず、その結果、解散・総選挙を繰り返してきた。このため、しばしば民主主義の機能不全が指摘される。今回のミシュアル首長による決定・発表は、こうした状況を打開するためのメスを入れるものである一方、政治決定にかかわる権限を首長が専有できることから、クウェイトの政治主体としての性格を大きく変化させうる。国内では2023年10月のガザ戦争以来、パレスチナを支援する抗議運動等が市内で起こっている様子が報じられる。市民が声を上げている状況だ。そうした中、市民が今次決定を閉塞状況からの脱却と見るか、独裁政治の始まりと見るかは、体制の今後の安定性に直結する可能性がある。
【参考】
「クウェイト:ムハンマド・サバーフ新首相の下での初の組閣」『中東かわら版』2023年No.160。
(研究主幹 高尾 賢一郎)
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