中東かわら版

№86 サウジアラビア:有力王族によるパレスチナ指導部への批判

 2020年10月5日以降、国営放送アル=アラビーヤでバンダル・ビン・スルターン王子(元総合情報庁長官・元国家安全保障会議事務局長・元駐米大使)のインタビューが放映され、UAE・バハレーンとイスラエルとの国交正常化について言及がなされた。バンダル王子は、湾岸諸国とイスラエルとの国交正常化の動きをパレスチナ指導部が批判していることに関して、逆にこれを「罪深い、非難に値する」と反論した。同反論の趣旨は以下の通り。

●パレスチナの立場は正当だが主張において失敗した。イスラエルの立場は不当だが主張において成功した。歴代のパレスチナ指導部は常に負ける方に賭け、代償を払ってきた。

●歴代のサウジ国王はパレスチナ人を支援してきた。パレスチナ人はサウジがつねに彼らを助けてきたことに留意すべきだ。海外諸国からの支援を必要とするパレスチナ高官の立場でUAEとバハレーンを批判すべきでない。実に低レベルな発言だ。

●彼らがUAEやバハレーンを批判すると、サウジとしてはパレスチナの指導部を信頼できなくなる。つまり、パレスチナ指導部は自ら問題の解決を妨げている。そもそも彼らは、サウジ含むGCC諸国よりもイランやトルコとの関係を重視している。

●例えばエジプトはパレスチナ問題の解決に向け、ガザ封鎖を解こうと努力している。しかしガザから来るのはテロリストや殺人者だ。このように現実世界は困難で複雑なのだ。

 

評価

 現治世の開始に伴って中枢から離れたとはいえ、スルターン元皇太子の子息であるバンダル王子の発言は、サウジ政府の真意を推し量る材料として国内外で注目を集めた。とはいえ、「パレスチナは支援が必要なら余計なことを言うな」という趣旨の同王子の発言はあまりに直截で、サウジ政府としてはこれをそのまま真意と思われたくないというのが本音ではないだろうか。

 もっともインタビューが放映された以上、バンダル王子の主張はある程度サウジ政府の方針に沿ったものだと考えられる。例えばパレスチナ側がイラン・トルコとの関係を深化させないこと、GCC・米国ないしイスラエルとの関係に干渉しないことなどは、サウジ政府として当然望ましい点である。加えて、同王子がパレスチナ側指導部を批判し、米国・イスラエルに与したともとれる発言を繰り返したことには、娘のリーマ・ビント・バンダル王女が現駐米大使であるといった事情も考えられる。

 

【参考】

中東かわら版「サウジアラビア:イスラエルとの国交正常化を改めて否定」No.71(2020年9月3日付)

(研究員 高尾 賢一郎)

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