№133 エジプト:最高憲法裁判所が抗議規制法の一部に違憲判決
12月3日、最高憲法裁判所は、人権団体弁護士らによる抗議規制法(2013年成立)の違憲審査請求に対し、「内務省ないし特定治安部隊の指揮官は、公的集会、パレード、デモの予定日より前に、治安や平和の脅威となる深刻な情報または兆候を得た場合、公的集会、パレード、デモを禁止する、またはその延期、他の場所ないし進路への変更を示した決定を発出できる」と規定された第10条に、違憲の判断を下した。他方、同じく違憲審査が請求された第7条(抗議で禁止される行為)、第8条(警察への抗議の事前通告)、第19条(違反者への罰則)については、合憲と判断した。
最高憲法裁は第10条を違憲と判断した根拠について、①第10条は市民の抗議する権利を否定する権限を内務省に付与しており、憲法第73条(平和的に抗議する権利)に違反する、②抗議計画者は治安当局に事前通告するという法が定めた手続きに従っており、当局は必要手続きを踏んだ抗議行動を禁止する権利を有さない、という2点を示した。
そのうえで、最高憲法裁は、治安当局が抗議の実施を防ぐ必要があるとみなした場合の措置として、①当局は裁判所に中止要請を行わなければならない、②裁判所が、抗議を行う権利よりも優先されるべき「利益、権利、自由」が存在すると判断した場合、予定されている抗議に対して中止命令を出す、と命じた。
評価
抗議規制法は、シーシー政権による政府批判封じ込めを目的とした非民主的法律として、内外から批判を浴びていた。主な批判としては、抗議で禁止される行為(第7条)が、公的秩序の撹乱、生産活動の妨害、市民の利益の妨害など、きわめて広い範囲で指定されていることや、治安当局が事前通告された抗議を禁止できること(第10条)、抗議活動中に犯罪行為が発生した場合は現場治安部隊指揮官の判断で武力による制圧が許されていること(第11~13条)であった。今回の判決で第10条が違憲と判断されたことの意義は、最高憲法裁が、憲法で保障された市民の平和的抗議を行う権利を保護する立場を明確に示したことである。
もう一つ注目すべき点は、抗議を禁止する際に、裁判所が治安当局と抗議計画者の調停役を果たすべきとの司法判断である。今後、この方法が治安当局に課せられるならば、当局は予定されている抗議の「脅威」を強調した中止要請を裁判所に提出すると予想される。これに対して裁判所がどのような判断を下すかは各地の裁判所や判事によるだろうが、現在の政治情勢に鑑みるに、裁判所は当局の意向に大きく背くような判断を下さないと思われる。したがって、今回の判決は、司法府のトップにある最高憲法裁が市民の抗議する権利を認めたという評価すべき点がある一方で、司法府が治安当局による行き過ぎた抗議規制を食い止めたり、市民的自由の行使を保護する役割を果たすかどうかについては、疑問が残る。
(研究員 金谷 美紗)
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