中東かわら版

№105 モロッコ:下院選挙で公正開発党が勝利

 10月7日、モロッコで下院(代議院)選挙が行われた。現在の連立政権を率いる公正開発党(PJD)が126議席を獲得し、第一党の座を保持した(注:10日、カサブランカ市で選挙不正の訴えが認められ、憲法連合党の議席が1減、PJDの議席が1増となった。下の表は8日の内務省発表に10日の変更を反映させたものである)。投票率は43%だった。

 下院の395議席は、定数2~5の92選挙区から比例代表によって選出される議席(305)と、全国1区の女性用議席(60)と40歳以下の若者が選出される議席(30)に分けられる(下図を参照)。比例代表制では多くの政党が議席を獲得できるため過半数を獲得する政党が現れにくく、モロッコでも常に第一党は過半数に達せず、連立政権が必要となってきた。今回も第一党のPJDが獲得した126議席は全体の3割に過ぎない。ただし前回の2011年選挙より18議席増となり、同党党首のベン・キーラーン首相は国民が過去5年間のPJD政権を肯定的に評価したことの証しであると述べた。

 しかし、最も議席を増やしたのは、102議席を獲得して第二党となった真正近代党(PAM)である。PAMは王室に近い政党とみられている。2011年選挙では第四党だったが、「PJD政権下でモロッコ社会がイスラーム化し、急進主義者が台頭した」、「PJD政権は政権公約を果たしていない」とPJD批判を強め、最近支持を拡大していた。

 10日、ムハンマド6世国王は第一党となったPJDのベン・キーラーンに組閣を命じた。PJDは連立交渉を開始したが、PAMはPJDとの連立を拒否している。

  

評価

 「アラブの春」後、中東のさまざまな国が民衆抗議や暴動や内戦で混乱しているなか、モロッコでは政治、経済、治安面で安定が保たれ、2011年に引き続き今回も概ね公正な選挙が実施された。また、他国ではイスラーム主義勢力の政治的台頭と同勢力に対する幻滅・嫌悪という現象が広く確認されるなか、モロッコではイスラーム主義のPJDが二期目の政権を担うこととなった。PJDが勝利できた理由は、他の中東諸国と比べて国内政治、経済、治安の安定を維持できたことと関係しているだろう。このように、同国は他の中東諸国とは異質な政治過程が存在するようにみえる。

 たしかにモロッコの安定は際立ってみえるが、モロッコ政治の本質は他国と同様である。第一に、2011年春にモロッコの若者が抗議行動で主張した不満である、社会の不平等、汚職、失業について、PJD政権は目立った成果を達成できていない。今回の選挙運動で多くの政党がこれらの問題について取り組む意思を声高に訴えたが、具体策に欠け、選挙運動の多くの時間は(特にPJDとPAM)敵対政党の批判に費やされた。大きな政治の動揺は起きていないものの、社会に鬱積した政治的不満は消えていない。

 第二に、「アラブの春」後も若者の政治離れが続いていることである。今回の投票率は43%とそれなりの数値ではあるが、有権者登録の割合が50%であることを加味すると、投票しなかった有権者は70%を超える。そして、投票しなかった有権者の多くは若者であると報道されている。若者は、政治家や政府が国民の期待に応える政治を行う主体と認識しておらず、投票を変化をもたらす有効な手段とみなしていない。このような政治参加を拒否する若者の一部が、民主主義を否定するサラフィー主義やイスラーム過激派に傾倒していくことは、モロッコだけでなく、チュニジア、エジプト、リビアなどで確認されている。次期政権には、真剣に若者を政治に取り込む努力が求められる。

 第三に、政治社会がイスラーム主義と非イスラーム主義(または世俗派)に分極化する可能性がある。チュニジアとエジプトで顕著な傾向は、「アラブの春」後に台頭したイスラーム主義勢力とこれを危険視する非イスラーム主義勢力の対立である。モロッコではこの二国ほど激しい対立は見られず、PJDはムスリム同胞団との関係を否定する発言も行っている。しかし今回の選挙では、イスラーム主義のPJDと非イスラーム主義のPAMに票が集中する一方で他政党は著しく票を減少させ、政界がPJDとPAMにほぼ二極化した。二党がイスラームという軸で対立を続ければ、モロッコでもイスラーム主義と非イスラーム主義の対立が強まる可能性があるだろう。これを回避するためには、立場を異にする政治勢力がプラグマティックな態度で喫緊の社会経済問題に取り組む必要がある。

(金谷研究員)

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