中東かわら版

№11 イスラーム過激派:「イスラーム国」の生態 「リビア進出」は困難?

 2016年4月13日付のレバノンの『ナハール』(キリスト教徒資本)は、「イスラーム国」の「リビア進出」の状況につき要旨以下の通り報じた。

 

  • 「イスラーム国」が進出しているとされるシルト市では、「イスラーム国」に従わない者の殺害、服装規制に違反した者への殴打、食糧不足が進む中で略奪が相次いでいる。

  • リビアにおける「イスラーム国」構成員の正確な人数は不明だが、「イスラーム国」に加わる者は増加している。西側諸国の情報機関や国連は、リビア以外からの外国人が3000人~6000人いると推定している。これについて、ミスラータの軍閥幹部は「イスラーム国」側に地元の事情に通じたりビア人構成員がいないため、「イスラーム国」がリビアの広域を制圧するのは困難であろうと述べた。

  • 2015年8月にシルトから逃亡した同市の市長は、「イスラーム国」はシルトの政治的分裂に乗じ、同市に混住している多数の部族の各々に支持者を募って社会的調和を破壊したと述べた。

  • リビアの高官らは、「イスラーム国」が初歩的な国家を樹立しているとしてきた。そこでは、課税、宗教教育、ラジオ放送がなされ、一層凶暴な統治が科されている。「イスラーム国」は、誘拐、盗品の売却、麻薬密輸、おそらく移住者の密航で資金を得ている。

  • スパイ罪での処刑、遺体の磔、飲酒や喫煙の密告、女性に対するアバーヤやニカーブの着用強制、少年兵の徴用が行われている。

  • 外国人を含む「イスラーム国」の兵士には、平均を上回る給与や、車両、結婚などの福利厚生が提供されている。

  • 「イスラーム国」はカッザーフィー体制時の要員の協力を得ているが、双方の協力の程度は低い。

  • シルトの住民は、「イスラーム国」の構成員の大半は外国人であり、地元住民にとって「イスラーム国」が魅力的でないことを示していると述べた。

  • リビアで活動する「イスラーム国」の幹部は同派の週刊誌『ナバウ』とのインタビューで、シルト以外の地域へ勢力を拡大することが困難であることを認めた。その理由は、リビアでは武装勢力が乱立し諸派間の相違が激しいことである。

 

評価

 「イスラーム国」がリビアを制圧し、同地を拠点化する懸念はかねてより指摘されていたが、今般の報道は「イスラーム国」によるリビア制圧は容易ではないとの見通しを紹介するものである。主な理由としては、宗派的帰属の多様性が乏しいリビアにおいては、イラクやシリアで作り上げた「シーア派に対する宗派戦争」のストーリーを描くことができないこと、リビアの各地に割拠する武装勢力や軍閥には、シリア政府やイラク政府、及びこの両者の同盟者のような「共通の敵」が存在せず、「イスラーム国」の下に結集させにくいことが考えられる。

 一方、「イスラーム国」はシルトにおいても高額の給与や様々な福利厚生の提供による人員勧誘や、飲酒・喫煙の禁止や服装規制のような様々な規正を暴力的に進めるなど、イラクやシリアでの占拠地域で行っているのと同様の「統治」を行っている模様である。「イスラーム国」による「統治」は、「イスラーム的に正しい振る舞いは来世で報われる」との精神的刺激のみで現世的な資源や支持を動員するとの発想に基づくものであり、これは「イスラーム国」に思想・心情的に共鳴しない者にとっては収奪以外の何物でもなく、持続可能な「統治」とはいえないだろう。そのため、仮に「イスラーム国」がシルト以外の地域、特に油田や石油の積み出し拠点を占拠することになっても、そうした地域を持続的かつ安定的に経営することは困難であろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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