中東かわら版

№8 イスラーム過激派:「イスラーム国」の生態 石油生産の減少

 4月6日付の『DailyMail』など欧米の各種報道は、「イスラーム国」の石油生産が空爆によって著しく低下していると報じた。以下その概要である。

 

  • 「イスラーム国」は日量1万から3万バレル(あるいは1万バレル以下)の石油を生産している。これは2014年半ばのおよそ半分の量である。同派はシリアから海外に石油を密輸するに困難な状況にある。
  •  石油収入は、(有志連合による空爆が開始され始めた)2014年の夏頃から減少していた。
  •  ジハード主義者達は、空爆を受けた石油施設の修繕とメンテナンスを行ことが困難な状況にある。
  •  石油の年間収入は現在、およそ4億ドルとみられる。
  • 地元筋によれば、「イスラーム国」は占拠地域に配分する資源の調達が困難な状況にある模様。

 

評価

 「イスラーム国」が占拠地域ないし海外から調達するヒト・モノ・カネといった資源に依存して存在していることに鑑みれば、今般の石油収入の減少は同派の財政に大きな打撃を与えたことを示唆している。これに合わせて、シリアにおける同派の占拠地域が40%減小したとの報道等を踏まえると、彼らの衰退が目に見えてきたと判断したくもなる。

 とはいえ、石油収入の悪化を受けて、彼らの衰退を想起する前に注目すべき箇所もある。つまり、「イスラーム国」を取り巻く環境が悪化したとすれば、そこで彼らがどのように振る舞うのか、ということである。例えば、彼らが石油以外の収入源を頼りに生存を図る可能性は濃厚だろう。事実、彼らは占拠地域の住民に対する取り締まりを厳格化し、課税や罰金として徴収する金額が増加しているとの報道も散見される。

 また収入の減少は、戦果や日々の暮らしなど広報活動上の材料不足、すなわち広報の質と量の低下に繋がると予想される。(ネット上で配信される声明や映像などの作品群の数が減少しているとの印象を前提にしてはいるものの)、昨今の二次創作者(「中東かわら版」2016年5号)が欧米のメディアで取り上げられた理由にも、公式の作品群が減少しているために、二次創作者に関心が集まったと判断できる。

 このように、「イスラーム国」を取り巻く環境が悪化する中で、彼らがどのような振る舞いを見せるのかを観察していくことが、今後の注目点の一つと思われる。

(イスラーム過激派モニター班)

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