№35 イラク:「イスラーム国」の支配下での暮らし
2015年6月9日、『ハヤート』紙はイギリスのBBCの特派員がモスル市内で行った隠し撮り取材を基に、「イスラーム国」が占拠するモスルでの暮らしぶりについて要旨以下の通り報じた。
- 「イスラーム国」は自分たちが女性を支配する権利があると考えている。
- 取材に応じた女性は、ニカーブなどを着用して体を隠し、夫と共に取材場所の食堂に来た。夫は彼女に顔を出すことを許したが、店主が自分が鞭打ち刑に受けるのを恐れて彼女に顔を隠すよう要望した。
- 「イスラーム国」の害悪は女性だけでなく少数派にも及んでいる。あるキリスト教徒の女性医師は、「イスラーム国」がモスルを占拠した後、家から出て行くことを強いられた。後日、彼女の家は「イスラーム国」の捜索を受け、家にはキリスト教徒の家であることを示す文字が書かれた。
- 女性、キリスト教徒、或いはさしたる違反事項がない者も、他の者が刑罰や拷問を受けている模様を見ることを強制される。これは、見せしめのためである。
- 喫煙のような軽度の違反は鞭打ち、窃盗は手の切断、姦通罪は男性の場合高い建物から投げ落とし、女性の場合は石打刑で死刑。
- 「イスラーム国」はモスル市内のほとんどの職業を禁止し、皆が失業した。「イスラーム国」はモスルの住民から街の再建のための費用を取り立てたが、ほとんどのサービスは「イスラーム国」の構成員だけに提供される。学校だけがその例外であるが、それは子供のうちから憎しみを植え付けるためである。
一方、国連の性暴力担当特使は、「イスラーム国」に連れ去られた女性の売買について要旨以下の通り発表した。
- ジハード主義者らはヤジーディーの女性を標的とし、彼女らをさらって奴隷市場を形成している。
- 女性らは奴隷市場で売買され、売値は数百ドルから1000ドル程度。タバコ1カートン程度の安値で売られることすらある。
- 女性の誘拐は、「イスラーム国」が外国人戦闘員を勧誘するための戦略的基盤のひとつになっている。外国人戦闘員は「イスラーム国」の戦闘の基幹であるが、「女性らが彼らを待っている」との勧誘が行われている。
評価
BBCの取材や国連の調査が「イスラーム国」が占拠する地域での暮らしぶりの実態をどの程度正確に把握したものかは不明ではあるが、いくつか注目すべき点がある。第一は、「イスラーム国」の振る舞いは性別や宗教・宗派的帰属を問わずモスルの住民からは害悪とみなされている点である。第二は、「イスラーム国」が経済や社会をろくに運営していない点である。第三は、「イスラーム国」に合流を試みる外国人こそが現在の「イスラーム国」の重要な構成員となっており、彼らは信仰心や、イラクやシリアの政府が行っているとされるムスリムへの抑圧への義憤に基づいて「イスラーム国」に合流するのではなく、女性・女奴隷という非宗教的な利得によって勧誘されているという点である。
イラクやシリアで「イスラーム国」を支持する地元住民がいることを説明したり、「イスラーム国」の存在を正当化したりする言辞に、「(アラウィー派が支配する)シリア政府や(シーア派が支配する)イラク政府よりも「イスラーム国」のほうがまし」というものがある。しかし、上記の報道を見る限り、「イスラーム国」が地元の住民の民心をつかんでいるようには思われない。また、報道からは、彼らが盛んに行っている賑わう市場や健全な行政サービスの模様を収めた映像は、単なるプロパガンダに過ぎないことが示されている。これらの報道からは、「イスラーム国」が犯罪行為や外部から流入する資源に依拠する度合いが増していることがうかがえ、ここから「イスラーム国」対策には資源の流入と彼らが犯す犯罪の取り締まりこそが肝要であると言うことができる。
(イスラーム過激派モニター班)
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