中東かわら版

№1 リビア:トリポリの国民議会がハーシー首相を解任

 3月31日、トリポリの国民議会は「国民救済内閣」のウマル・ハーシー首相を解任し、ハリーファ・グワイル第一副首相を暫定首相に任命した。今後、国民議会は1カ月以内に正式な首相を任命するか、グワイル暫定首相の任期を延長するか検討する。「国民救済内閣」とは、一部の政治勢力が2014年の議会選挙によって成立した代表議会の正統性を否定し、同年8月、これらの勢力によってトリポリの国民議会(既に任期切れ)をもとに作られた内閣である。国際社会は、国民議会及び「国民救済内閣」をリビアを代表する正統な議会・政府と認めていない。

 国民議会報道官によれば、議員70名が同首相の経済運営を批判する文書を国民議会に提出し、16名の閣僚もハーシーが首相を辞任しなければ閣僚を辞めると主張したという。その結果、国民議会はハーシーの首相解任を決定した。一方、ハーシーは辞任を拒否していが、4月1日、辞任を受け入れた。

評価

 これまでの報道を見るかぎり、ハーシー辞任を要求した議員らがどのような不満を持っていたのか、また国民議会がどのような手続きでハーシーを解任したのかは明らかではない。

 2014年8月に西部トリポリと東部トブルクに2つの政府が成立して以来、リビアの経済状況に関しては、中央銀行と両政府との関係、両政府の財源がどこにあるのか、財政危機の程度など、不明な点が多い。しかし各地で紛争が続き、国家の統治能力がほぼ失われた状況において、両政府の財政が危機的状況にあることは間違いない。それにもかかわらず、ハーシーはトリポリ政府の財政は危機的状況ではない、リビア中銀に十分な預金があるなど信用を失わせるような発言を繰り返してきた。議員が主張した経済運営への不満とは、このようなことを意味するのかもしれない。

 また経済運営だけがハーシー解任の理由ではないとも考えられる。リビア紛争において西のトリポリ勢力も東のトブルク勢力も一枚岩ではなく、トリポリに関して言うと、ハーシーが「リビアの夜明け作戦」を完全に統制できていないことは以前から指摘されていた。トリポリを支持するミスラータの地方評議会は国連仲介の停戦対話を支持すると表明し、停戦に前向きな姿勢を示している。最近では、トリポリはトブルクとだけ戦うのではなく、中部沿岸地域の「イスラーム国」支持勢力とも戦闘に入り、紛争はさらに混迷している。こうした紛争の長期化、混迷化が、経済危機も相俟って、指導者としてのハーシーへの不満を増幅させていたと考えられる。

(研究員 金子 真夕)

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