中東かわら版

№36 イラン:第14期大統領選挙実施前の国内情勢

 2024年6月28日、イランでは第14期大統領選挙の実施が予定されており、同国内では選挙キャンペーンが繰り広げられている。今次選挙は、ライーシー大統領の不慮の死を受けて、後継大統領を選出するため行われるものである。選挙実施前の国内情勢について、1.テレビ討論および地方遊説、および、2.世論調査を中心に取り纏めたところ、断片的なるも、概要は以下の通りである。

 

1.テレビ討論および地方遊説

  • 選挙キャンペーン期間中、最終候補者6名によるテレビ討論が5回予定されており、第1回が6月17日、第2回が6月20日、第3回が6月21日に実施され、経済・社会・文化的課題等について議論がなされた。今後、第4回が6月24日、第5回が6月25日に実施される予定である。
  • ペゼシュキヤーン候補(元保健相;改革派)は6月19日、中央部エスファハーンを訪問し選挙集会を開いた。また、ザーカーニー候補(テヘラン市長;保守強硬派)は北部の東アゼルバイジャン州都タブリーズを訪れた。ガーリーバーフ候補(国会議長;保守強硬派)は東部ケルマーン州を訪問し、故ソレイマーニー革命防衛隊司令官の支持者らにアピールした。

 

2.世論調査

  • 6月20日、世論調査団体ISPA(独立系)は「今現在選挙が実施されたとして、あなたは誰に投票しますか?」との問いに対し、ジャリーリー候補(元国家最高安全保障評議会書記;保守強硬派)に26.2%、ペゼシュキヤーン候補に19.8%、ガーリーバーフ候補に19.0%、ガージーザーデ・ハーシェミー候補(副大統領;保守強硬派)に2.6%、ザーカーニー候補に2%、プールムハンマディー候補(元内相;保守強硬派)に0.9%という調査結果(6月18-19日時点)を発表した。また、「まだ誰に投票するか決めていない」は27.4%だった。同調査は、イラン各地で、18歳以上の4545人を対象にインタビュー形式で行われた。
  • 6月21日、『プレスTV』(国営英語放送)は、「確実にこの人に投票する」との質問に対し、ジャリーリー候補に22.5%、ガーリーバーフに19.5%、ペゼシュキヤーン候補に19.4%、ガージーザーデ・ハーシェミー候補に2.7%、ザーカーニー候補に2.2%、プールムハンマディー候補に0.9%が回答したとの世論調査結果(6月18-20日時点)を発表した。「まだ誰に投票するか決めていない」は28.4%だった。また、「確実に、あるいは、おそらく投票する」との質問に対し、ペゼシュキヤーン候補22.5%、ジャリーリー候補が19.2%、ガーリーバーフ候補に18.5%との調査結果も伝えられた。同調査は、イラン各地で18歳以上を対象にインタビュー形式で行われたが、サンプル数は不明である。
  • 6月24日、世論調査団体ポルセシュは、ペゼシュキヤーン候補が30.9%、ガーリーバーフ候補が22%、ジャリーリー候補が19.6%、ガージーザーデ・ハーシェミー候補に4.4%、プールムハンマディー候補に3.5%、ザーカーニー候補に3%だとする世論調査結果(6月21-22時点)を発表した。「まだ誰に投票するか決めていない」は16.6%だった。同調査は、イラン各地で5760人に対してインタビュー形式で行われた。

 

 今後、6月28日に第1回投票が実施され、過半数を得る候補がいればその人物が当確となる。他方、過半数を制する候補がいない場合、憲法117条に基づき、翌金曜日(7月5日)に決選投票が行われ、開票後に最終結果が確定することになる。

 

評価

 世論調査の信憑性への疑義を差し引いたとしても、現時点において集められるデータを見る限り、ジャリーリー候補、ガーリーバーフ候補、ペゼシュキヤーン候補の3名が優位にあると考えることができる。保守強硬派の中ではジャリーリー候補に対して、イラン体制指導部の動員できる岩盤支持層の支持が集まっているようにみえる。一方、改革派のペゼシュキヤーン候補には、ジャハーンギーリー元第一副大統領、ザリーフ元外相らが支持を表明するなど、改革派支持層のみならず保守穏健派支持層からの支持が集まっており、着実に支持層を拡大していることから今後の趨勢が注目される。

 こうした中で今後を左右し得るポイントは、まだ投票先を決めていない有権者が誰に票を投ずるかである。いずれの調査結果をみても、投票先を決めかねている有権者の数は相当数に上っている。浮動票がどう動くかで、大きく風向きが変わる可能性がある。また、投票率も選挙結果に大きな影響を与えるだろう。投票率が上がれば、唯一の改革派であるペゼシュキヤーン候補に浮動票が流れる可能性は高まる。反対に投票率が下がれば、岩盤支持層が全体に占める割合が高くなり、保守強硬派のジャリーリー候補、ないしガーリーバーフ候補が有利になるものとみられる。この点、Z世代と呼ばれる若年層が、政治に対する無関心を示すのか、あるいは投票所に足を運ぶのかが結果に影響を与えそうだ。

 一方の保守強硬派候補の間では、票割れを起こす懸念がある。保守強硬派候補が乱立している現状は同派に不利だとして、候補者の一本化が図られるようであれば残った候補がリードする状況になろう。但し、第1回投票で過半数に届くかは不透明な情勢である。他方、乱立状態のままであれば、いずれの候補も過半数を得られず、決選投票が行われる蓋然性がより高まる。なお、決選投票で保守強硬派候補と改革派候補の一騎打ちとなった場合、最終結果を巡って敗者陣営から苦情・不服申立がなされる状況も想定されるため、国内治安情勢の流動化も念頭に置く必要があろう。

 

【参考情報】

「イラン:第14期大統領選挙の最終候補者6名が発表」『中東かわら版』No.32、2024年6月10日。

「イラン:6月28日実施予定の大統領選挙に向けた立候補者登録受付が終了」『中東かわら版』No.29、2024年6月4日。

「イラン:ライーシー大統領らが搭乗するヘリコプターが不時着、死亡が発表」『中東かわら版』No.25、2024年5月20日。

(研究主幹 青木 健太)

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