中東かわら版

№29 イラン:6月28日実施予定の大統領選挙に向けた立候補者登録受付が終了

 2024年6月3日、第14期大統領選挙に向けた立候補者登録受付が終了した。5月30日から始まった5日間の立候補者登録期間を通じて、計80名(男性76名、女性4名)が登録した。今回の受付終了を以て、全ての立候補者が出揃ったことになる。

 今次選挙はライーシー大統領らの搭乗するヘリコプター墜落事故発生(5月19日)を受けて、憲法第131条規定に基づき、新大統領選出のために実施されるものである。今後、護憲評議会(法曹家6名、イスラーム法学者6名から構成される。監督者評議会とも呼ばれる)による資格審査を経て、最終候補者が絞り込まれ、6月28日に投票が行われることになる。

 主な選挙日程、及び、立候補者は以下の通りである。

 

主な選挙日程

  • 5月30日~6月3日:立候補者登録
  • 6月11日:最終候補者の発表
  • 6月12日~27日:選挙キャンペーン期間
  • 6月28日:投票日(過半数得票者がいない場合、上位2候補による決選投票)

 

表 イラン第14期大統領選挙における主要な立候補者一覧

登録日

氏名

備考

5

30

サイード・ジャリーリー

公益判別会議メンバー;元国家最高安全保障評議会(SNSC)書記;革命防衛隊出身;2013年大統領選挙得票3位;保守強硬派

 

31

アリー・ラーリージャーニー

最高指導者顧問;イラン・中国包括的協力協定交渉責任者;元国会議長;2021年大統領選挙出馬(事前資格審査で失格);保守穏健派

 

31

アブドゥルナーセル・ヘンマティ

元中央銀行総裁;2021年大統領選挙最終候補(得票3位で落選):改革派

6 

1

マスウード・ペゼシュキヤーン

国会議員;元保健相;改革派

 

1

ワヒード・ハッガーニヤーン

最高指導者側近;保守強硬派

 

1

アリー・レザー・ザーカーニー

テヘラン市長;2021年大統領選挙最終候補(投票日前に撤退);保守強硬派

 

1

ザフラ・エラヒヤーン

国会議員;女性

 

2

マフムード・アフマディーネジャード

元大統領(2005-2013年);元テヘラン市長;革命防衛隊出身;保守強硬派

 

2

ムハンマド・マフディー・イスマーイーリー

文化・イスラーム指導相

 

2

ムハンマド・モキーミー

テヘラン大学長

 

3

イスハーク・ジャハーンギーリー

元第一副大統領;2021年大統領選挙出馬(事前資格審査で失格);保守穏健派

 

3

ハサン・ノウルージー

国会議員

 

3

ムハンマド・バーゲル・ガーリーバーフ

国会議長;元革命防衛隊空軍司令官;元治安維持軍(警察)司令官;元テヘラン市長;2005年、2013年、2017年に大統領選挙に出馬(落選・撤退);保守強硬派

 

3

メフルダード・バズルパーシュ

道路・都市開発相;元パールス自動車代表取締役;元サイパ自動車グループ代表取締役;元副大統領兼国家青年庁長官

 

3

ソウラト・モルタザヴィー

協同・労働・社会福祉相;元行政担当副大統領

 

3

アミールホセイン・ガージーザーデ・ハーシェミー

副大統領兼殉教者・退役軍人財団理事長;元国会副議長;2021年大統領選挙得票4位;保守強硬派

 

3

ダーウド・マンズール

副大統領兼予算計画庁長官;元国税長官

 

3

アリー・ニークザード

国会副議長

(出所)公開情報を元に筆者作成。なお、上表は、現地報道ぶりを参照の上で主要な候補者を列記したもので、網羅的なものでない。全候補者氏名はこちら

 

評価

 イランの選挙制度は権威主義的な側面と民主主義的な側面を合わせ持っており、護憲評議会による資格審査でどのように最終候補者の絞り込みが行われるかが重要である。有権者は直接投票で大統領(任期4年、再選可)を選ぶことができる点である程度民主的といえるが、その一方で護憲評議会が事前資格審査で候補者をスクリーニングし10名前後の最終候補者に絞りこまれることが通例となっている。つまり、イラン体制(ハーメネイー最高指導者及び治安機関・宗教界に代表される中央権力)の意向を強く受ける仕組みであり、今次選挙においてもこの点を充分考慮して趨勢を見極める必要がある。

 これらを踏まえ、今次選挙の注目ポイントは、護憲評議会が保守強硬派、保守穏健派、改革派等の異なる属性の候補をバランスよく残すのか否か、保守強硬派が乱立する立候補者の一本化を図れるか否かの2点である。1点目に関し、前回大統領選挙では護憲評議会がライーシー候補(当時)のライバル候補を軒並み失格にし、多くの有権者が不満の表明として投票をボイコットした経緯がある。有権者を置き去りにする形で資格審査が行われれば、有権者の不満を招き、低投票率につながる可能性がある。2点目に関し、保守強硬派の有力候補者が乱立していることから、一本化が図られなければ票割れを起こすと予想される。現在、国民的知名度を誇る立候補者には、ジャリーリー元SNSC書記、アフマディーネジャード元大統領、ガーリーバーフ国会議長、ラーリージャーニー元国会議長、ジャハーンギーリー元第一副大統領、ヘンマティ元中央銀行総裁らがいるが、彼らの内、誰が残されるかで体制指導部の意向を推し量ることができるだろう。

 そして、ハーメネイー最高指導者の覚えがめでたかったライーシー大統領亡き現在、体制指導部が今次選挙に次期最高指導者選出という隠れたアジェンダを持たせるのか否かが最も重要である。規則上、最高指導者が大統領経験者でなければならないとの決まりは存在しない。この点だけ見れば、今次選挙の当選者が、自動で次期最高指導者に就任するわけではない。他方、ハーメネイー最高指導者は85歳という高齢に達しており、事あるごとに健康不安説が囁かれている。万が一の事態を念頭に置けば、体制指導部にとって後継者候補を育てる必要性は非常に高いといえ、後継者問題と今次選挙を絡める選択もあり得る。

 

【参考情報】

「イラン:ライーシー大統領らが搭乗するヘリコプターが不時着、死亡が発表」『中東かわら版』No.25、2024年5月20日。

(研究主幹 青木 健太)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP