中東かわら版

№56 イスラーム過激派:バングラデシュでの襲撃事件#2

2016年7月3日早朝(日本時間)、バングラデシュでのレストラン襲撃事件についてインターネット上で「イスラーム国 バングラデシュ」名義の犯行声明がみつかった。ほぼ同じ時刻に特攻要員5名の写真も出回った。

声明要旨は以下の通り。

*殉教の騎士5名がダッカで十字軍諸国の国民の集団へと出撃した。

*彼らはイタリア人7名を含む十字軍の者22名を殺害した上、バングラデシュの警察将校2名も殺害した。さらに、その他50名を負傷させた。

*十字軍諸国の国民は、彼らの航空機がムスリムを殺し続ける限りムジャーヒドゥーンの攻撃から安全ではいられないと思い知れ。さらに激しい次の攻撃を待つがいい。

 

画像:「イスラーム国」が発表した声明

 

評価

 従来「イスラーム国 バングラデシュ」名義で動画や画像が発信されたことがなく、声明が主張する作戦行動の実態の面で信憑性に留保すべき点が多かったが、今回は実行犯と主張する5名の画像が出回るなど、これまでに比べれば説得力の高い内容となっている。イタリア人の犠牲者数に既に表れているように、今後発表されるであろう様々な捜査情報との齟齬が注目点となろう。一方、今般の声明には、ラマダーンをはじめとする攻撃実施の意義についての説明が一切含まれていない。この点は、攻撃の広報効果や今後の攻撃の可能性についての脅迫効果を考えれば不出来な点といえよう。従って、5月末の「イスラーム国」の報道官の演説でムスリムに対しラマダーン月に欧米での攻撃を実行するよう扇動したとされる内容が含まれている件と今般の襲撃事件を関連付け、「イスラーム国」の世界的な攻勢云々と論じることは依然として推測・憶測の域を出ていないと思われる。

 なお、声明の中には「日本」、「日本人」という文言は全く現れない。これは、少なくとも声明の執筆者の認識においては攻撃対象・戦果として他と区別すべき存在が「イタリア人」だけであり、その他の犠牲者の所属や国籍がさしたる関心事ではないことを示唆している。しかし、2015年10月にバングラデシュで日本人が殺害された事件の犯行声明においても日本人は「十字軍同盟諸国の国民」と位置づけられており、日本人が攻撃対象と認識されていることは明らかである。また、2016年7月1日に「イスラーム国」の自称通信社である「アアマーク」がバングラデシュで「仏教徒政党」の指導者暗殺についての記事を発表していることから、今後仏教徒の犠牲者が多数出る事件が発生した場合は日本人についても仏教徒や異教徒と形容することもありうるだろう。いずれにせよ、「イスラーム国」やその支持者の認識に鑑みれば、日本や日本人を「攻撃しない」、「攻撃に手心を加える」という可能性はほぼないと考えてもよい。このため、「イスラーム国」をはじめとするイスラーム過激派の動向や思考・行動様式に関する情報収集・分析と、脅威情報の発信を一団と強化しなくてはならないだろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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