中東かわら版

№36 シリア:安田純平氏の画像が出回る

 2016日5月30日朝(日本時間)、2015年にシリアで消息を絶った安田純平氏の画像がインターネット上で出回った。画像は、助けを求めるメッセージが書かれた紙を持つ安田氏のものであるが、画像の製作者の身許や要求事項を示す情報は一切含まれていない。

 

評価

 安田氏の安否についての情報が出回るのは、2016年3月17日に70秒ほどの動画が出回って以来である。このときも、同氏を捕らえている主体の素性や要求事項についての情報は全く含まれていなかったが、今回は「最後のチャンス」との文字や、「イスラーム国」や「アル=カーイダ」が人質に着せるオレンジ色の服を模倣したかのようないでたちなど、安田氏の状況が切迫しているかの如く思わせるようなつくりとなっている。ただし、オレンジ色の服は元々はアメリカ軍がイスラーム過激派容疑者を収監するグアンタナモの施設で用いられていた囚人服を模したものであり、これを用いることが事実上の処刑予告となるのは「イスラーム国」とその前身の組織だけである。

 一部報道では日本政府が交渉に応じなければ(安田氏を誘拐したとされる)「ヌスラ戦線」が同氏の身柄を捕虜交換を通じて「イスラーム国」に引き渡すとの脅迫があるとされている。「ヌスラ戦線」はシリアにおけるアル=カーイダであり、「イスラーム国」とは競合・敵対関係にある。その一方でシリアの戦場で両派が実際に戦火を交えることはそれほど頻繁ではないため、両派の関係は一部で競合・敵対する場面があるものの、実際には戦術的に連携して政府軍を攻撃する馴れ合い関係である。両派の間で「捕虜交換」が行われたとされる最新情報は2016年5月半ばに反体制派寄りの「シリア人権監視団」が発表したものがあり、全くありえない話ではない。

 現時点で「ヌスラ戦線」から安田氏についての公式な情報発信は一切ないため、同派が事件にどの程度関与しているのかは不明である。しかし、「ヌスラ戦線」は国連やアメリカ政府にテロ組織と認定され制裁・攻撃対象になっている一方で、シリアの「反体制派」の軍事的な主力として活動し、「反体制派」は「ヌスラ戦線」に軍事的に依存し、同派を政治的に擁護している。仮に「ヌスラ戦線」が安田氏を誘拐し日本政府に身代金を要求しているのであれば、日本政府が支援している「反体制派」側の団体が日本の権益を損なっているという矛盾した事態になっていることに注意が必要である。

(髙岡上席研究員)

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