中東かわら版

№124 イスラエル:西岸の不法入植地をめぐる動き

 イスラエル最高裁は、2014年12月24日、西岸にある不法入植地アモナを2年以内に撤去するよう命令した。同期限がせまる中、イスラエル政府は今年10月31日、撤去命令実施の7カ月延期を要請した。しかし、11月14日、最高裁は同要請を却下した。西岸での入植地建設を支持する極右政党「ユダヤの家」は、12月末の撤去を見越して、西岸のC地域(イスラエル軍が管轄する地域)を併合すべきだとの主張を強める一方で、既存の不法入植地を過去にさかのぼって合法化する法案を準備していた。最高裁が、アモナ撤去延期要請を拒否した前日の11月13日、国会への法案提出を審査する閣僚委員会は、不法入植地の合法化に関する法案を全会一致で国会に送付することを決定した。

 こうした動きに対して、翌14日に米国務省報道官が懸念を表明したほか、フランス、エジプトも深い懸念を表明している。与党の中道政党クラヌのカハロン党首(財政相)は、15日、最高裁決定に反する法案は支持できないと発言している。国会採決で、与党政党の間で投票行動が異なる場合、連立政権の基盤に亀裂が入る可能性がある。ネタニヤフ首相は、10月19日に開催された入植者らを含むリクードの会合で、米国の大統領選挙終了後からオバマ大統領の任期終了までの2カ月間は、入植者らは賢く行動しないと政治・外交的な圧力が増大して入植地活動全般が危うくなると極右勢力の動きを牽制していた。

 不法入植地アモナに住む42家族とその支援者らは撤去に抵抗する準備をしていると報道されている。イスラエル軍・警察が、実力で入植者らを排除する可能性が増大している。イスラエル政府は、同不法入植地に住む家族を移転させるためとして近くの入植地に住宅を建設しようとしたが、米国政府は、この動きを強く非難している(「中東かわら版」No.103参照:http://www.meij.or.jp/kawara/2016_103.html)。

評価

 西岸のラーマッラー近郊にある不法入植地アモナをめぐる極右入植者と政府の抗争は1990年代から継続している。そのため12月末に現在の不法入植地が撤去されたとしても、入植者らが別の新しい不法入植地を同じ場所か近くに建設する可能性がある。

 イスラエルの基準では、不法入植地と合法的な入植地の2つの区分があるが、国際社会の基準ではすべての入植地が不法である。イスラエル最高裁は、入植地アモナは不法だとして撤去を命令しているが、国際法的には、イスラエル最高裁が合法と見なす入植地も不法であり、将来的には撤去の対象になる。従って、極右政党「ユダヤの家」が国会に提出した既存の不法入植地を合法化する法案が成立したとしても、イスラエル国内の扱いが変わるだけで、国際的な評価は変わらない。

 入植地建設のために土地を接収されるパレスチナ人地主・農民にすれば、入植地が不法であろうが合法であろうが、自分たちの承認なしで土地を取られることに変わりはない。イスラエルでいう合法的な入植地の場合、パレスチナ人の土地を接収するのはイスラエル軍であるが、不法入植地の場合は極右の活動家である点が違うだけである。ただ訴訟で土地の返還を求める際、不法入植地の場合は司法の理解・支援を受けやすい側面は確実にある。

 ネタニヤフ首相にとって最高裁が指定した撤去期限(12月25日)は、政治的に極めて微妙である。12月25日までに撤去しない場合、最高裁の命令に背くことになる。また米国のオバマ大統領は、イスラエル政府が最高裁の命令に従わずに不法入植地撤去を行なわないことに強く反応する可能性がある。逆に同入植地を強制撤去する場合、入植者・極右活動家と軍・警察が暴力的に衝突する可能性があるし、政権内の極右政党が連立から離反する動きを見せるかもしれない。他方、何からの手段でアモナ撤去を1カ月遅らせることができれば、オバマ大統領の任期は終了してトランプ政権が成立している。トランプ次期大統領のイスラエル担当顧問は、入植地は違法でないと明言しており、トランプ政権の対応はオバマ政権より緩やかになる可能性がある。イスラエルの極右勢力は、今のところ、トランプ政権は入植地活動だけでなく西岸併合にも理解を示すだろうと期待を膨らませている。

(中島主席研究員 中島 勇)

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