中東かわら版

№123 「イスラーム国」の生態:「アアマーク通信」の実情

 2016年11月14日付『ハヤート』(サウジ資本の汎アラブ紙)は、イラク当局に逮捕された「イスラーム国」の自称通信社「アアマーク通信」の構成員の自白を基に、「イスラーム国」の広報活動の実情につき要旨以下の通り報じた。

  • 「イスラーム国」の広報活動はピラミッド型に組織されている。末端部を担うのは情報提供者で、「イスラーム国」が占拠していない地域では治安部隊や民間人にまぎれた情報提供者もいる。諸々の情報は中央広報委員会に集約され、同委員会がその使い道を決める。
  • 広報活動の目的は、民間人に恐怖を植え付けること、戦闘員の士気を高揚させることである。
  • 広報要員の給与は月額400ドル未満である。この金額は、「イスラーム国」側の資源の欠如や支出削減の結果、減額されたものである。
  • 撮影した動画類は完全な状態で中央広報委員会に送付されるが、これは動画を技術的に編集するためである。
  • 公開する動画類は、高画質で撮影したものだけである。これは、「イスラーム国」の活動を国際的な衛星放送で報道されるくらい高度な技術で示すためである。

評価

 上記の証言をした人物は、情報提供者と中央広報委員会との中間のどこかに位置づけられる「記者」と思しき人物である。この人物自身も、バグダード管区で複数の情報提供者から情報や画像の提供を受けていたと自供している。自供によると、最末端の情報提供者が「イスラーム国」の構成員であるとは限らず、彼らが情報を提供する動機も「イスラーム国」への共鳴や支持だけでなく、金銭的な動機や知己を通じた人間関係に至るまで多様なものとなろう。

 情報を上部に集約し、そこで動画や画像の用途を決定する以上、「イスラーム国」の中央広報委員会で情報の信憑性を確保する活動がある程度行われていると思われる。そのため、「アアマーク」やその他の製作部門が発信する情報については、動画の有無や敵方が知りえない情報の暴露の有無が今後も信憑性を判断する重要な指標となろう。また、上記の自白は最近「イスラーム国」の広報活動は量・質共に低下傾向にあることについて注目すべき情報を含んでいる。すなわち、広報部門の要員に支給される給与などが減額されていることが、広報活動、特に末端での情報の収集に悪影響を与えている可能性が考えられるのである。最末端の情報提供者に支払う謝礼が減少すれば、その分情報提供者の活動は鈍るであろう。また、資金不足などにより各地の「州」で動画の製作や発信を担当する人材の確保が難しくなれば、現場で戦果が上がっても組織の威信や名声を獲得するための広報につなげられなくなるため、「イスラーム国」の勢力も衰えることとなろう。

 「イスラーム国」の広報体勢については、イラクやシリアから離れた地域の情報はどこにどのようにして集約されるのか、機関誌類の多言語化は誰がどこで担っているのかなど、解明すべき点が依然として多い。広報活動の実態を把握し、情報流通の経路を押さえることも、重要な「イスラーム国」対策といえる。

(イスラーム過激派モニター班)

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