中東かわら版

№114 パレスチナ:エジプトがラファ境界の通行を緩和か

 エジプトは、ガザとの国境にあるラファ境界事務所の通行を緩和しつつあるようだ。エジプト当局は、10月15日から23日までラファ境界事務所を開き、この間約5000人がガザからエジプトに出国した。パレスチナの『マアーン』通信(10月24日)は、エジプトは2015年にはラファ国境を344日閉鎖(計算では開放は21日)したが、2016年になって定期的にラファ境界事務所を開放していると報道している。中東調査会が作成している「中東クノロノジー」のデータでは、ラファ境界事務所が開放される日数が増加したのは5月からで、その後、毎月境界事務所が開放されるようになった。日誌データを整理すると10月末までに推定で計32日間開放されており、すでに昨年1年間の開放日数を越えている。5月以降、ガザを出国した人数は推定で1万人(サウジへの巡礼者を含む)を越える。5月はじめ時点では、約3万人がエジプト入りを希望していると報道されていた。

  

評価

 エジプト政府が、ラファ国境の通行を緩和している兆候はあるが、その理由は明確ではない。エジプトのムルシー元大統領は、ガザのハマースを優遇したが、シーシー政権は、一転してハマースに対して厳しい政策を取った。シーシー大統領は、ハマースがシナイ半島のイスラーム過激派勢力及びエジプト本土のムスリム同胞団と関係を持っていることを警戒し、ガザとの国境地帯の管理を強化した。エジプト軍は、国境地帯にあった地下トンネルをほぼ根こそぎ破壊し、無人の緩衝地帯を設置した。その結果、エジプト側からガザへのトンネルを経由した密輸産業は壊滅し、ハマースは経済的に大打撃を受けた。エジプト側からガザへの密輸ルートは壊滅したが、それに変わるエジプトからガザへの公式な物資流通ルートはまだ確立されていない。それでもエジプトが、人の移動に限定する形であってもラファ境界事務所の規制を緩和しつつあることは、ガザ住民にとっては朗報だろう。エジプトあるいは他の国での病気治療などさまざまなことが可能になるし、若い世代にとっては、国外留学のための出国が比較的容易になる。何より、国外に出るための選択肢が限定的であっても機能するようになれば、ガザ住民の閉塞感はある程度緩和されるだろう。

 

 他方、シナイ半島の治安状況については、大きな変化はない。そのため状況次第では、ラファ境界事務所の通行規制が再び強化される可能性は常にある。今後、ラファでの国境管理が、通常体制に戻るためには、パレスチナ自治政府が形式的であってもガザ統治を再開する必要がある。さらにその上で、EUから派遣された専門家らが、通関業務を代行する体制が構築されなくてはならない。ハマースがガザの統治者として居座る限り、そのような体制になる可能性はない。パレスチナ自治政府は、自分たちが主権国家ではないので、EUの支援を受けない限り、主権国家が取り扱う国境での通関業務はできない立場にあることをよく承知している。他方、ハマースは、自分たちが実質的に国境を管理する立場にあれば、国境での通関業務を行うことがきると考えている節がある。ハマースには、自分たちは単なる政党であってそれ以上の存在(自治政府あるいは主権国家)ではないとの認識が欠落している。その傲慢さが、ガザ住民に不必要でかつ過去にない大きな苦難と混乱を与えている。

(中島主席研究員 中島 勇)

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