中東かわら版

№106 サウジアラビア:エジプトへの石油供給を停止

 10月に入り、サウジアラビアからエジプトへの石油供給が停止された。10月9日、エジプト石油省のアブドゥルアジーズ報道官は「様々な理由によりサウジ・アラムコからの石油製品が到着していない」と述べた。10月10日付の『Reuters』は、エジプト政府筋の情報として、10月初頭にサウジ・アラムコがエジプト石油公社(EGPC)に石油製品の供給ができないことを伝えてきたと報じている。両国は、4月にサルマーン国王がエジプトを訪問した際に、サウジが毎月70万トンの石油精製品を5年間エジプトに230億ドルで供給することで合意していた。

 エジプトは10月分の石油製品を受け取ることができておらず、国内消費に必要な石油を買い付けるため、EGPCは5億ドルを割り当てる計画である。10月12日、アブドゥルアジーズ報道官は、他の供給元から緊急に石油を買い付けることができたと述べている。本件に関し、サウジアラビア側からはいかなる見解も出されていない。

  

評価

 報道ベースでは、昨今のサウジ・エジプト関係の冷え込みが今回の石油供給の停止につながったと論じられる傾向にある。直近では、10月8日に国連安保理でロシアが提出したシリアに関する決議案にエジプトが賛成票を投じたことをサウジが問題視しており(なお、エジプトはフランスとスペインが提出した決議案にも賛成票を投じている)、サウジのムアッリミー国連大使は「(非常任理事国の)セネガルとマレーシアの立場の方がアラブを代表する国(エジプトのこと)よりもシリアに対するアラブの総意に近かったことを見るのは、痛ましい」と述べ、エジプトを批判した。従来からサウジとエジプトはシリアを巡る対応で一致していなかったが、公の場でサウジがエジプトを非難するのは稀なことであり、サウジ側のエジプトへの強い不満が窺える。近年のサウジ・エジプト関係は良好なものであったが、エジプトがサウジにティーラーン島を引き渡したことでエジプト国民の間に強い反サウジ感情が生じるなど(島の引き渡しを巡る問題については以下を参照。「サウジアラビア・エジプト:海上国境の画定・二国間を結ぶ橋の建設で合意」『中東かわら版』No.7(2016年4月11日)「エジプト:サウジへの2島引き渡しに反対するデモ」『中東かわら版』No.12(2016年4月18日))、ここ数カ月はぎくしゃくとした関係が続いている。

 もっとも、石油供給の停止がこうした政治的な動機に基づくものなのかは未だ不明である。上述のとおり、石油製品が未到着であることは10月9日の時点で明らかにされており、10月8日の国連安保理でのエジプトの投票行動が直接的なきっかけになっているとは考えづらい。また、停止措置が一時的なものであるのか、あるいは今後も継続されていくのかも定かではない。供給過剰が続いている石油市場ではエジプトが新たな石油供給元を探すことも難しくないが、サウジとの契約より条件は悪くなることが予想される。深刻な外貨不足に悩むエジプトがどのような決断をするかが今後の焦点となろう(エジプトでの外貨不足については以下を参照。「エジプト:外貨不足の深刻な影響」『中東トピックス』No.16-06(2016年10月1日))。

(研究員 村上 拓哉)

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