中東かわら版

№75 イラン:核合意の履行を巡る米国の対応を批判

 合意から1年、履行開始から6カ月が経過したイラン核問題に関する「包括的共同行動計画(JCPOA)」について、米国による義務の履行が十分でないとの批判がイラン側から強まっている。8月1日、ハーメネイー最高指導者は、核合意は米国との交渉が無益であること、約束への取り組みを欠いていること、米国の誓約を信じる必要がないことを改めて証明したと述べた。

 また、8月2日には、ロウハーニー大統領がテレビ演説において、核合意はイランとイラン経済にとって良い状況をもたらしたものの、米国議会を始め履行を阻害する勢力がいることを指摘した。これに関連し、ロウハーニー大統領は、米国は義務を適切に履行しないことにより、他の分野におけるイランとの協力の機会を失していると述べた。

  

評価

 イラン側からの米国批判はこれまでもハーメネイー最高指導者などにより繰り返されてきたが、合意から1年が経過した現在もイランの経済状況が大きく改善していないことから、次第にロウハーニー政権も批判の度合いを強めるようになっている。核合意による制裁緩和にも関わらずイラン経済の停滞が解消されない要因の一つに、米国の対イラン取引は依然として制裁対象になっているため、米国と取引のある第三国も対イラン取引で米ドル決済を行うことができなくなっているという事情がある。これは、核合意成立時点から分かっていたことであり、厳密には合意に含まれていない問題であるが、各国企業がイランとの取引を躊躇する際に上記の理由を挙げるため、イラン側としては米国が妨害しているように見えるという構図になっている。

 これに加え、米国議会においてイランに新たな制裁や制限をかけようとする動きが頻繁に表面化している。6月に米ボーイング社がイラン航空と民間航空機の売却契約を結んだ際にも、米下院の金融委員会において、財務長官による承認の阻害、航空機売却のライセンス停止、イランと取引する企業へ銀行からの融資を禁止するなどの措置が検討されている。

 懸念すべきは、こうした米国議会の妨害行為によって、米国政府としては合意履行の意思があり、合意で取り決められた義務を一定程度誠実に履行していながらも、本来イランが合意の結果として受けられるはずであった利益が縮小していることは、イラン政府にとって米国による合意の「不履行」に見えるということである。特に、ロウハーニー政権は核合意の達成による経済状況の改善を公約としてきただけに、政権の安定性や次期大統領選の結果を左右しかねない問題となっており、米国に対する不満を強めている。

(研究員 村上 拓哉)

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