中東かわら版

№43 イラク:「イスラーム国」の生態 モスルの生活環境悪化

 2016年6月7日、『ハヤート』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)は、地元の記者らからの情報を基にモスルでの生活環境が悪化しているとして要旨以下の通り報じた。

  • 「イスラーム国」が資金難に苦しみモスルに商品が輸送されなくなったため、同地の生活環境が悪化している。現金が不足しており、モスル市民の一日あたりの収入の平均は1ドル程度である。一方、ラマダーン期間中とのこともあり物価は継続的に上昇し、上昇率は10%~20%である。トルコやシリアからのトラックも来なくなった。
  • 米一袋の価格は6万ディナール(1ドル=1100~1200ディナール)。電力料金(月額?)は通電時間に応じて6000ディナール、1万5000ディナール、2万ディナールの三種類。民間業者の電力料金は20ドル。
  • 「イスラーム国」は(収入源だった)石油施設が攻撃されるようになると資金繰りに苦しみ、政府の施設から鉄などの建材を略奪し、売却している。このほか、罰金の取り立て、住民や避難民への不動産賃貸をしている。
  • 2カ月ほど前に「不道徳である」との理由で衛星放送の受信機の破壊令が出された。しかし、反応が乏しかったため(衛星放送受信機設置の)罰則が凍結された。
  • モスル市民は一人当たり月額5万ディナールの各種税・手数料を取り立てられている。一方家庭で使用する調理用ガスのボンベは一缶50ドルに値上がりした。減収や物価の上昇により、モスルの市民は家財の売却や日給3000ディナール(3ドル弱)程度の長時間労働を強いられている。住民の逃亡が相次いでいるが、「イスラーム国」は逃亡した住民の住居を爆破した。また、逃亡を試みた住民11名が公開処刑された。

 

評価

 モスルの生活環境の悪化については既に様々な情報が出回っているが、今般の報道の注目点は同地に物資が搬入されなくなった原因を「イスラーム国」の資金難と指摘している点と、モスル市民の一日あたりの収入が3ドル未満になっている点である。これらは、「イスラーム国」が外部から調達する資源や現地からの収奪に頼って運営されている存在であり、占拠している地域で生産活動を営む環境を提供していないことを如実に示している。「イスラーム国」対策としては、同派への資源供給を絶つと共に、同派が占拠していた地域の社会の再建や経済の復興も視野に入れる局面が訪れているといえる。

(イスラーム過激派モニター班)

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