中東かわら版

№41 サウジアラビア:「国家変革計画2020」の発表

 6月6日、サウジアラビア政府は経済・開発評議会(ムハンマド・サルマーン副皇太子が議長)が策定した「国家変革計画2020」を閣議で承認した。同計画は先に発表された経済改革計画「ビジョン2030」の目標を達成するため、2020年までに到達すべき戦略的な目標を設定するものである(「ビジョン2030」については「サウジアラビア:2030年までの経済改革計画「ビジョン2030」を発表」『中東かわら版』No.19(2016年4月26日)を参照)

 公表された112ページから成る「国家変革計画2020」では、全体の目標として、2020年までに民間部門における45万人分の雇用創出や、計画の履行に必要な資金の40%を民間部門から調達する、輸入を減らし国内で2700億リヤール(約720億ドル)分の産業を育成するといったものが掲げられている。そして、これを進めるためには、透明性の確保、組織化、政府機関間の協調・調整を進めていくことが重要であると指摘している。計画は5段階から成り、第一段階では課題の特定と中間目標の設定、第二段階では戦略目標を達成するための構想の展開、第三段階では構想を履行するための詳細な計画の展開、第四段階では目標と結果の透明性の推進、第五段階では監査・更なる改善・新たな構想の立ち上げ、更なる政府機関の参加を、それぞれ進めていくことになる。

 また、省庁を含めた24の政府機関において、あわせて178の戦略目標が設定されており、それぞれの戦略目標には達成度を測定するための指標と2020年までの数値目標が設けられている。例えば、財務省では非石油収入を、2015年の1635億リヤール(約440億ドル)をベースラインとして、2020年までに5300億リヤール(約1400億ドル)にすることが目標として掲げられている。これは、「ビジョン2030」では2030年までに1兆リヤール(約2700億ドル)に達することを目標にしていたものである。

  

評価

 今回公表された計画では、178の戦略目標の達成度を測定するために371の指標が設けられたものの、中間目標となる数値目標が設定されているのは346に留まっており、25の指標の数値目標については検討中となっている。このほか、各指標ではベースラインや地域・国際水準もあわせて掲載されているが、これも「集計中」や「検討中」となっている箇所が散見されており、今回の発表で計画の全容が明らかになったとは言い難い。もっとも、これは計画における第一段階にあると考えれば、2016年中に完了することが期待されるものともいえる。

 「ビジョン2030」と同様、こうした経済・財政改革は、方向性としては概ね歓迎されているものの、重要なのはこれが本当に実現されるのかどうかという点にある。ムハンマド・サルマーン副皇太子が旗振り役となっているこの改革は、これまで王族間での権限分有という側面もあったことで縦割り行政と指摘されてきたサウジ政府において、上からの改革を推し進めようとするものである。現在、閣内で大臣職を有する王族は、ムハンマド・サルマーンの他はムハンマド・ナーイフ皇太子兼内相とアブドゥッラー前国王の息子であるムトイブ国家警備隊相のみであり、この二省はこうした改革の対象となっていない。このことから、ムハンマド・サルマーンは改革の対象の各省庁の大臣に対しては大きな権限を持っており、改革を推進しやすい立場にあるといえよう。

 しかしながら、こうした政治的な障害を乗り越えたとしても、国家変革計画で示された各目標達成の見通しは明るくない。今回は2020年までのロードマップこそ示されたものの、各指標における数値目標をどのようにして達成するのかという方策の部分にはほとんど言及がない。例えば非石油製品の輸出を1850億リヤール(約490億ドル)から3300億リヤール(約880億ドル)と約80%もの増加を目標としているが、実質4年半の間にどの産業がそれだけの国際的な競争力をつけて海外市場に進出できるようになるのか、見通しは不透明なまま課題だけが残されている。2020年までにすべての指標で目標を達成することは不可能だとしても、主要な目標の多くが未達成となれば、政府の信頼性を傷つけることになろう。

 

※サウジアラビアの経済改革については、近藤重人「サウジアラビアの経済・財政改革:原油価格の低迷と脱石油化の試み」『中東研究』第526号、2016年5月もあわせてご参照ください。

(研究員 村上 拓哉)

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