中東かわら版

№35 アフガニスタン:ターリバーンのマンスール師が死亡(2)

  5月25日、ターリバーンは米軍の攻撃で指導者マンスール師が死亡したことを公式に発表した。報道では、同師の遺体はアフガニスタン国内に埋葬された。米軍は21日にマンスール師の乗る車を攻撃したことを明らかにし、23日にオバマ大統領がマンスール師が死亡したと発表していた。

評価 

 ターリバーンは、米国の発表から2日遅れでマンスール師の死亡を公式に発表した。これは初代指導者死去の発表と比較すると極めてスムーズだった。初代指導者オマル師については、2015年7月下旬、約2年ほど前にすでに死亡していたと発表され、同時にマンスール師が新指導者に選出された。この不可解な指導者死去の発表もあってか、マンスール師の最高指導者就任については、就任後、内部での不協和音が一部表面化した。

  米国の発表とターリバーン声明では、マンスール師が殺害された場所の表記が微妙に異なる。米国は、パキスタン西部の「バローチスターン州」としたが、ターリバーンは、アフガニスタンの「カンダハル県の国境地帯」としている。ターリバーンは、パキスタン内での攻撃であったことを目立たなくしたいのかもしれない。米『NYT』紙は、ターリバーン指導者の死亡以上に、米軍が大統領の承認を得て、パキスタンのバローチスターン州でミサイル攻撃を行なったことの意味を重視している。米国は、同州での攻撃をこれまで控えてきたとされる。もし今回の攻撃が、バローチスターン州がターリバーンの聖域になることを米国が認めないことを意味するのであれば、今後、同州での攻撃が増加するかもしれない。アフガニスタン紛争では、パキスタン国内にターリバーンの聖域があることが常に問題視されてきた。オバマ大統領が、対パキスタン戦略を変更して、パキスタン内のどこであれターリバーンを攻撃することにしたのであれば、この戦略変更がターリバーンを和平交渉に向かわせるかどうか焦点になる。

  今回の無人機による攻撃で、米国はパキスタンにいたマンスール師の居場所を正確に掌握していたこと、さらに地上でしか判定できない同師の生死を迅速に確認できる能力を持っていたことを示した。報道ではターリバーンは、パキスタン当局が情報を米国に流したことを懸念している。他方、パキスタンは、米国が従来の方針を変えて、パキスタン国内でのターリバーン攻撃を拡大することを懸念しているようだ。米国が、パキスタン国内でのターリバーン攻撃を拡大する場合、米国・パキスタン関係だけでなく、パキスタンの対ターリバーン政策も変わるかもしれない。

(中島主席研究員 中島 勇)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP