中東かわら版

№34 アフガニスタン:ターリバーンのマンスール師が死亡

 2016年5月25日、ターリバーンはアメリカ軍による爆撃により指導者のマンスール師が死亡したとする説について指導評議会名義で要旨以下の通り声明を発表した。

  • アフガン・イスラーム首長国指導者で信徒の長であるアフタル・ムハンマド・マンスール師は、2015年5月21日にカンダハル県の国境地帯でアメリカの暴君の無人機の爆撃を受け殉教した。イスラーム共同体の正義の運動の数々は指導者の殉教や死に直面してきたが傷が大きくともそれは信仰心の持ち主たちの足場を揺るがさなかった。むしろ彼らの決意を増したのである。
  • マンスール師は、困難な状況の中でも世界的暴君どもの要求や脅迫に屈することなくウマル師と同様に職務を果たした。
  • 信徒たちは指導者の死に際して新たな指導者を任命しなくてはならない。高徳のウラマーや政治・ジハードの専門家多数からなるイスラーム首長国の指導評議会はフッバトッラー・アフンドザーダ師を新たな指導者に任命した。これは、評議会の全会一致の結果であり、議員らは正統な指導者に忠誠を表明した。同様に、サラージュッディーン・ハッカーニー師と、ウマル師の息子であるムハンマド・ヤアクーブ師を副指導者に任命した。
  • 指導評議会は、この機微な状況において全てのムジャーヒドゥーンと人民に団結を呼びかける。ムジャーヒドゥーンは、心配する必要は全くない。イスラームとジハードの火は終末の日まで燃え続ける。我々にはイスラーム首長国という真っ当体制があり、この体制を守り、強化するため全ての者が新たな指導者であるアフンドザーダ師に忠誠を表明するのは宗教的義務である。

 

評価

 アフンドザーダ師は、カンダハル出身で60歳代の人物で、ターリバーンの創始者であるウマル師に近いとされている。同人が新指導者に選出されたことを受け、ターリバーンの公式サイトには各地の指揮官からの忠誠表明の声明が相次いで掲載された。その一方で、今後ターリバーンがアフガンでの和平協議にどのような態度で臨むのか、軍事活動を強化するのかなどの方針についての情報は発信されていない。

 現在、アフガンではターリバーンが勢いを増し、同国に駐留するアメリカ軍の規模縮小や撤退の動きが停滞する危険な情勢にある。その一方で、「イスラーム国」に与する集団がターリバーンから離反し、「ホラサーン州」を名乗って活動するようになった。「ホラサーン州」の活動はアフガン政府やアメリカ軍、外国勢力ではなく、ターリバーンを「民族主義運動」とさげすんでこちらを攻撃対象とする傾向が強まりつつある。今後のターリバーンにとっては新指導者の下で一体感のある運動として活動を続けることができるかが課題となろうが、アメリカ軍による暗殺作戦には、ターリバーンを政治的にも軍事的にも統制不能な状態に追いやる効果がある。そして、ターリバーンの弱体化や解体は、同派と競合する「イスラーム国」にとっては何よりの援護射撃となろう。現時点では、マンスール師の殺害がターリバーンとアフガン政府などとの和平の促進のような効果をあげる保証は乏しいといえる。

(イスラーム過激派モニター班)

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