中東かわら版

№32 イラン:第5期専門家会議の議長にジャンナティー監督者評議会書記が選出

 5月24日、2月の選挙で選出された議員ら88人による第5期専門家会議が開会され、初回の会合において議長を選出するための投票が行われた。86人の議員が投票し、アフマド・ジャンナティー監督者評議会書記が51票、エブラーヒーム・アミーニー元専門家会議副議長が21票、マフムード・ハーシェミー=シャーフルーディー前司法権長が13票をそれぞれ獲得し、ジャンナティーが当選した。議長選への出馬が取り沙汰されていたラフサンジャーニー元大統領は立候補を見送った。

 同日、副議長も選出され、モハンマドアリー・モヴァヘディー=ケルマーニー元国会副議長が65票獲得で第一副議長に、シャーフルーディー前司法権長が63票獲得で第二副議長にそれぞれ当選した。

評価

 専門家会議は、最高指導者の罷免および選出を司る機関である。イラン政治における主要な機関の一つであるものの、日常的な政治に関わる業務は少なく、政策決定の面で同機関の存在を意識することはあまりない。しかし、今期専門家会議は、ハーメネイー現最高指導者が76歳と高齢であり、健康状態を不安視する見方もあることから、その任期(8年)中に次期最高指導者を選出することになる可能性が高く、2月の専門家会議議員選挙も大きな注目を集めた。

 今回議長に選出されたジャンナティーは、ハーメネイー最高指導者に近く、法案の審査や議員立候補の資格審査を司る監督者評議会の書記を1988年から務めている、保守強硬派の中心人物である。2月の選挙においてもモハンマド・ヤズディー前専門家会議議長らとともに同派の「顔」として選挙戦を繰り広げたが、定数16のテヘラン選挙区でラフサンジャーニーに近い保守穏健派・改革派勢力に15議席をとられ、自身は同選挙区で1位当選を果たしたラフサンジャーニーの6割程度の得票で最下位当選という厳しい結果に終わった(同選挙については「イラン:第10期国会議員選挙・第5期専門家会議議員選挙の実施」『中東かわら版』No.175(2016年3月1日)を参照)。

 こうしたことから、第5期専門家会議では、ラフサンジャーニー、もしくはラフサンジャーニーに近い人物が議長に就任する可能性が高いという見方があった。各種報道では、アミーニー元専門家会議副議長がラフサンジャーニーを始めとする保守穏健・改革勢力の推す候補だったと報じられていたこともあり、今回の議長選によるジャンナティーの当選を保守穏健派・改革派の「敗北」として論じる向きもある。こうした報道が正しいとすれば、2月の選挙結果に関わらず専門家会議内は引き続き保守強硬派が大きな勢力を維持しており、ラフサンジャーニーの影響力は限定的であることを意味しよう。

 他方、ラフサンジャーニーがアミーニーを議長に就けるべく影響力を最大限行使したかどうかという点には疑問が残る。イラン政治においては各人がどのような政治的立場にあるか必ずしも明示的ではないが、アミーニーが獲得した21票という数字はラフサンジャーニーの政治的影響力の大きさを反映していないものと見られる。2007年の専門家会議の議長選では、ラフサンジャーニーは76票中41票を獲得してジャンナティー(31票)を破っている。2015年にモハンマド・ヤズディーと競った際には73票中47対24で敗北しているものの、2016年2月の選挙を経て保守穏健派が勢力を伸ばした専門家会議内で改選前より票数が減るのは不自然であろう。13票を獲得したシャーフルーディーもラフサンジャーニーに近いとされるため、候補者の一本化に失敗したと見ることも可能ではあるが、これはむしろ穏健派が強硬派の政治的退潮の傾向に一定の配慮を見せたものであるという見方もある。『The New York Times』は、ロウハーニー政権に近い政治アナリストにインタビューをして、一部の穏健派が戦術的な理由によりジャンナティーを支持した、穏健派にとって選挙での敗北後の強硬派の不安を除去し、政治の舞台に乗せておく必要があったと報じている。ラフサンジャーニーも、「選挙は落ち着いた雰囲気の下、迅速かついかなる論争もなく行われた」と肯定的に評価しており、ジャンナティーと激しく競合していた様子は見せていない。

 専門家会議の議長と監督者評議会の書記に同一人物が就くことはイラン史上初めてのことであり、権力の集中が懸念されるが、ジャンナティー自身が89歳と最高指導者より高齢であり、いつまで政治的な権力を保持し続けられるかは不透明である。次期最高指導者の選出にあたっては、実際の投票こそ専門家会議内で行われるものの、候補者の選定にあたっては内外の複数の勢力が影響力を行使するものであり、また、必ずしも多数派の論理で強硬に決定されるものではないことから、ジャンナティーの議長就任が次期最高指導者の選出過程にもたらす影響は大きくないという議論もある。

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