中東かわら版

№23 イスラーム過激派:ザワーヒリーがシリア情勢についての演説を発表

 2016年5月7日(日本時間)、インターネット上でアル=カーイダの指導者であるアイマン・ザワーヒリーのシリア情勢に関する演説ファイルがみつかった。現在の世界の情勢についてザワーヒリーが演説を発表するのは、およそ5カ月ぶりである。演説の要旨は以下の通り。

  • シャーム(注:シリアのこと)は、同地での革命が「アラブの春」の諸革命の中で唯一正しい道を進んでいるが故に、イスラーム共同体の希望である。正しい道とは、シャリーア統治の樹立を呼びかけ、イブラーヒーム・バドリー(注:「イスラーム国」のバグダーディーのこと)のそれではない正しいカリフ制の樹立に努める教宣とジハードの道のことである。

  • そのせいで、現世の犯罪者共はシャームにジハードの国家ができることを妨げようと結集した。あらゆる場所のムスリムとムジャーヒドゥーンは、イギリス、アメリカ、サウード家の国、その他地域諸国による陰謀からシャームのジハードを防衛しなくてはならない。陰謀とは、世俗主義、愛国主義、民族主義、世界的犯罪体制と共存できる偽イスラームを押し出すことである。

  • 世界の指導者たちにとっての大問題は、シャームのムジャーヒドゥーンがパレスチナとの境界に立ち、イスラエルなるものを脅かしていることである。

  • 現在の我々の義務は、世俗主義のヌサイリー(注:アラウィー派のこと)体制やその仲間であるラーフィダ(注:シーア派のこと)、ロシア、西洋十字軍からの解放のため、シャームのムジャーヒドゥーンに団結するよう促すことだ。

  • ここに、残された問題がある。それはイスラーム共同体の目を真の敵から逸らす試み、すなわち「ヌスラ戦線」をアル=カーイダから切り離す試みである。幾度も繰り返してきたが、我々は権力ではなくシャリーア統治を希求する者であり、シャームにおけるムジャーヒドゥーンの団結を訴え続けている。組織的な帰属なぞ、イスラーム共同体の希望の前に障害とはならない。然るに、問題は犯罪者共は「ヌスラ戦線」がアル=カーイダと分かれただけで満足するだろうかということだ。犯罪者共は、その後に「ヌスラ戦線」に対し人殺しの犯罪者と席を共にし、いんちき合意を締結し、堕落した政府に屈服し、民主主義ゲームに参入するように求め、挙句にかつてアルジェリアのFISやエジプトのムスリム同胞団にしたように刑務所につなぐことだろう。

  • 我々アル=カーイダは、納得ずくの忠誠の表明しか受け入れてこなかったし、新たなハワーリジュ(注:「イスラーム国」のこと)がしているように、敵対者を不信仰者呼ばわりしてこなかった。

評価

 この演説については、一部の著名報道機関が「ザワーヒリーは「ヌスラ戦線」がアル=カーイダから離れることに異論がない」と報じた。しかし、内容を精査すると、「ヌスラ戦線」がアメリカなどの働きかけに応えてアル=カーイダから離れた場合の将来について懐疑的な見解を述べている演説だということは明らかである。この演説は、「シャリーア統治が実現するならば「ヌスラ戦線」がアル=カーイダから離れてもよい」というのではなく、「「ヌスラ戦線」がアル=カーイダから離れて欧米諸国やサウジに迎合してもシャリーア統治は実現しない」との趣旨である。

「ヌスラ戦線」は現在アレッポ市や同市の南郊で激化している戦闘の主力となっており、イランの革命防衛隊の隊員多数が死傷したハーン・トゥーマーンの戦闘も、実質的には「ヌスラ戦線」が担っている。こうした現実に対し、サウジやカタルは以前から「ヌスラ戦線」に対しアル=カーイダから離れるように働きかけ、同派を「よい武装勢力」に位置づけようと画策してきた。その一方で、ロシアはアメリカとの間で「ヌスラ戦線」の拠点や占拠地域を特定することで合意し、同派を本格的に討伐する方針だと考えられている。「ヌスラ戦線」やアル=カーイダは、従来シリア紛争の中でアル=カーイダ色を極力隠し、「ヌスラ戦線」を欧米諸国やサウジなどの支援を受ける「反体制派」諸派と不可分に一体化させることによって、シリア領内に地盤を築こうとしてきた。現在のシリア情勢の展開は、「反体制派」を軍事面で乗っ取る形となっている「ヌスラ戦線」と、それを承知で「反体制派」を支援してきた諸国の政策が岐路に差し掛かっていることを示している。

(イスラーム過激派モニター班)

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