中東かわら版

№12 エジプト:サウジへの2島引き渡しに反対するデモ

 4月15日、カイロなどで、ティーラーン島とサナーフィール島をサウジアラビアに引き渡すことに反対するデモが行なわれた(2島問題については、2016年4月11日付け『中東かわら版』No.7を参照)。Facebook上で15日金曜日にカイロで抗議デモを行うことが呼びかけられ、「4月6日運動」や左派の「革命的社会主義者」などが賛同、当日はその他の活動家や一般市民など数千人が参加した。最も多くの人数が参加した場所はカイロのダウンタウンにあるジャーナリスト協会前で、報道によるとカイロ県やギザ県で80~90人が逮捕された模様である。

 シーシー大統領の就任以来、ムスリム同胞団支持者などイスラーム主義者による反政府デモはしばしば大小さまざまな規模で起きていたが、非イスラーム主義者による反政府デモが数千人規模で行われたことは珍しい。デモでは、2島はエジプト領であることやサウジへの引き渡しに反対する内容のスローガンが叫ばれた一方で、「パン、自由、社会的公正」(2011年1~2月の大規模な民衆抗議運動で叫ばれた)や「軍事政権は倒れろ」(2011年秋、タンターウィー暫定軍事政権に反対するデモで叫ばれた)というスローガンも聞かれた。 

 

評価

 1週間前にサウジのサルマーン国王がエジプトを訪問した際に、同国王とシーシー大統領との間で2島がサウジに帰属することが合意され、これが発表されると、エジプトの議会や世論において2島引き渡しに反対する声が起きた。エジプト政府は、2島の主権はそもそもサウジにあり、エジプト政府が2島を貸与されていたと説明しているが、政治家の間や世論では、2島エジプト領説を主張する意見からサウジ・エジプト政府が議会や国民への説明なしに首脳間で国境の再画定に合意したことに反対する意見まで、様々な議論が巻き起こっている。

 今回のデモの目的は2島引き渡しへの反対だが、「パン、自由、社会的公正」や「軍事政権は倒れろ」というスローガンが叫ばれたことにも注目すべきである。デモに参加した非イスラーム主義者は2013年のムルシー政権追放クーデタを支持し、シーシー政権の誕生を歓迎した勢力である。しかし、最近はシーシーの支持基盤からの政府批判が目立つ。これは、シーシーがエジプトに安定をもたらすことを公約にして大統領に就任したものの、シナイ半島や都市部でのテロの継続による観光部門の冷え込み、ロシア旅客機の墜落事件による観光部門への追撃、経済的危機状態の継続、治安当局による多数の拷問事例の表面化、文化・芸術分野における表現の自由の制限などにより、政府の政治経済運営の手法に疑問をもつ人々が増えているためである。こうしたシーシー政権への不満を背景に、突然の2島引き渡しという決定が発端となりデモに発展したと考えられる。 

(研究員 金谷 美紗)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP