中東かわら版

№10 シリア:人民議会選挙の実施

 2016>年>4>月>13>日、シリアでの国会に相当する人民議会(定数>250>)の選挙が行われた。>16>日には選挙結果が発表され、投票率は>57.56>%だった。今回の選挙は、>2012>年に新憲法が制定されてから二度目の人民議会選挙であるが、内外の「反体制派」は選挙をボイコットした。選挙はひとつの県を一選挙区とする連記式の大選挙区制(アレッポ県は「アレッポ市」と「アレッポ郊外」の二つの選挙区に分割される)で行われ、およそ>3500>人が立候補した。選挙結果については、与党のバアス党を中心とする「挙国一致リスト」の候補者全員が当選した。>

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評価>

 さしたる「野党」が存在しない上、与党連合の候補者は事実上事前に当選が約束されているシリアの人民議会選挙については、かねてから形式的なもの、観察や分析の価値がないものと考えられがちである。さらに、今般の選挙はアメリカなどの諸国がアサド政権には正当性がないと主張し、選挙そのものを「違法」とみなす中で行われたため、アサド政権が与党の勝利と国民からの信認を誇示するための示威行動に過ぎないとの批判もある。しかし、選挙の過程や結果を分析する価値がない、というわけではない。シリアのような非民主的な政治体制においては、今般の人民議会のような機関の議員の構成が、「体制側がどのような社会集団・政治勢力を同盟者・参加者として体制内に迎え入れようとしているのか」を非常に明瞭に示しているからである。>

 16>日に発表された当選者の名簿を見る限り、ダマスカスやアレッポ、ホムスなどの都市部の名望家層、地方部では部族の指導者層の出身者が当選しやすかったようである。また、アサド政権と近しいと思しき実業家や宗教家の関係者に加え、アルメニア人、クルド人といった民族集団からも満遍なく代表が選出されていると見られる。映画監督や俳優のような、いわゆるタレント議員も選出されたようだが、これは芸術家、作家などの職能組合や女性運動が、バアス党傘下で組織され、そこから人民議会議員などを選出する制度が整っているからである。>

 2012>年の選挙後は個々の議員・政治家の離反や逃亡が見られたが、今般の選挙結果からは過去>40>年あまりの間アサド政権が依拠してきた各種政治・社会的勢力の取り込みの手法に大きな変化は感じられない。また、依然として地域、宗教・宗派、民族、職業、階級、地縁・血縁、性別などに基づくシリア社会の各種の構成要素の大半がアサド政権下の人民議会に参加し続けていることも明らかになった。>

(主席研究員 髙岡 豊)

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