中東かわら版

№89 パレスチナ:裁判所が地方選挙実施の停止を命令

 9月8日、パレスチナ最高裁(在西岸・ラーマッラー)は、10月8日に予定されていた地方選挙実施の停止を命じた。裁判所は、継続して審議を行い、最終的な地方選挙実施の有無を決定する。今回の停止命令は、地方選挙が東エルサレムでは実施されないことについて提訴されたことへの判断だとされた。報道では、地方選挙の停止を求める他の訴えもあり、その中にはガザで立候補を表明していたファタハ活動家4人が、ハマース系裁判所が行なった資格審査で失格にされたことについての提訴もある。最高裁の判断を受けて、パレスチナ中央選挙管理委員会は、選挙準備作業を停止した。裁判所の次回の審議は9月18日だとの報道もあるが確定ではないようだ。

 前回の地方選挙は、2012年に実施されたが、ハマースが選挙参加をボイコットした結果、西岸だけで実施された。2016年選挙については、6月21日、パレスチナ自治政府が、地方選挙を10月8日に実施すると発表していた。ハマースは、7月15日に地方選挙参加を表明、8月にはPFLP、DFLP、FIDA、PPPなど左派系の小規模組織らが統一名簿で参加すると発表していた。他方、8月中にイスラーム聖戦機構、ガザの人民抵抗委員会が、選挙への不参加を表明している。8月17日には、立候補の受け付けが開始されていた。公式な選挙運動の開始は9月下旬であるが、8月末には、SNSなどですでに選挙戦が開始されているとの報道もあった。

 

 評価

 パレスチナでは、国政選挙(大統領、評議会、任期4年)が規定通り行なわれない状況が続いている。前回の大統領選挙は2005年、評議会選挙は2006年に行われた後、約10年間行われていない。他方、地方選挙は、定期的に実施されてきた。今回、ハマースが参加を表明したことで、西岸とガザで選挙が実施できる状況が生まれていた。

 パレスチナの最大の政治課題は、西岸とガザの分裂状態の解消である。国民和解の動きは細々と継続されているが、成果が出ていない。そのため西岸とガザの分裂状態は、すでに10年近く続いている。ファタハとハマースが和解するため最善の方法は、大統領・評議会選挙を行い、有権者に判断を下してもらうことだといわれている。西岸とガザでの地方選挙のスムーズな実施は、国政選挙実施のための前向きの政治的雰囲気を作ると期待されているだだけに、今後の裁判所の判断が注目される。

 仮に、地方選挙が予定より遅れて実施された場合、ハマースの指導部体制が変わっている可能性がある。報道では、ハマースの政治局長の選挙が11月か12月に実施されるようだ。ミシュアル現政治局長は立候補せず、唯一の候補はハニーヤ「前ガザ首相」になるとの憶測報道もある。ハニーヤは、9月初旬、ガザを出て湾岸に向かった。巡礼でサウジを訪問するといわれるが、巡礼後は、湾岸に留まるとの見方もある。

(中島主席研究員 中島 勇)

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