中東かわら版

№173 トルコ:アンカラで自動車爆弾による自爆攻撃の発生(2)

 2月17日、トルコの首都アンカラにおいて、トルコ軍兵士を乗せたバスの車列を狙ったとみられる爆弾攻撃が発生した事件で、トルコ政府はシリア北部を拠点とするクルド系組織、クルド民主統一党(PYD)の軍事部門である人民防衛隊(YPG)の犯行であると発表した。PYD/YPGは、トルコ南東部に拠点を置くクルディスタン労働者党(PKK)の傘下組織(または兄弟組織)とされている。この事件では現在までに一般市民を含む28名が死亡、61名が負傷している。

 ダウトオール首相は17日の記者会見で、本事件を「テロ」と断定、YPGのメンバーがPKKメンバーと共謀して行った犯行と延べた。また、国連の潘基文事務総長も本事件を非難する声明を発表した。

 トルコ軍は事件発生当日の夜、イラク北部にあるPKKの拠点に対し空爆を行った。

 これに対し、PKKおよびPYD/YPGともに同「テロ事件」への関与を全面的に否定している。

  

評価

 トルコ政府にとり、もっとも頭を悩ませている問題がクルドである。2013年10月に始まったPKKとの和平交渉は「トルコにとって歴史的な第一歩」である言われたものの「イスラーム国」の台頭によって暗礁に乗り上げ、その後、PKKやクルド系住民とトルコ政府との関係は悪化の一途を辿っている。

 2015年6月の総選挙と11月に行われた出直し再選挙のいずれにおいても親クルド系政党である人民の民主主義党(HDP)が議席を獲得した。特に11月の再選挙前にはHDPに対する激しいネガティブキャンペーンが与党の公正発展党(AKP)を中心に引き起こされたにもかかわらず、(議席数は減少しながらも)支持を得ている。

 30年以上にわたる長い武装闘争によって、トルコ、クルド双方は3万人とも4万人とも言われる多大な犠牲を払ってきた。今回の「テロ事件」で政府はPKKとつながりの深いシリアのクルド系過激派による犯行だと断定、武力制圧を辞さない構えをみせている。だが、これらの行為が今後トルコをさらに危険にさらす要因になり得ることが懸念される。

(研究員 金子 真夕)

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