中東かわら版

№171 イスラエル・パレスチナ:暴力連鎖の概況

 2016年2月中旬、イスラエル軍と国内治安を担当するシンベドは、2015年秋から増加したパレスチナ人とイスラエル人の衝突の概況数字を発表した。同発表に基づくイスラエル、米国のメディアの報道を整理すると、2015年8月から2016年1月の6カ月に限れば、衝突が最も激しかったのは昨年10月で、その後、衝突件数は減少している。イスラエル人の死者数の合計は30人になる。同期間のパレスチナ人側の死者推定(アラブ側)は1月末時点で約170人である。

 

 

衝突件数

イスラエル人死者数

2015年

8月

171

 

 

9月

223

1

 

10月

620

11

 

11月

326

10

 

12月

246

3

2016年

1月

169

5

 

1755

30

 

 パレスチナ人群衆とイスラエル軍・治安部隊が衝突する事件とは別に、過去5カ月(2015年9月-2016年1月)間に、単独あるいは複数でイスラエル人を攻撃したパレスチナ人219人(事件数228)のうち、約半分の実行犯が20歳以下だった。事件に関係したパレスチナ人の年齢は、15歳以下10%、16歳-20歳37%、21歳-25歳33%、30歳以上10%、さらに女性の割合が11%となった。事件が発生した場所は、西岸地区74%、エルサレム地域16%、イスラエル国内10%となった。

評価

 イスラエル軍・シンベドが発表した数字は、紛争当事者の一方側の数字である。そのため今後、パレスチナ当局側、イスラエル・パレスチナ及び国際的なNGOが発表する関連の数字と照合する必要があるが、イスラエル軍・シンベドがこれまで発表してきた数字の信頼性は高く、概況を理解するための暫定的な数値として有用である。衝突件数だけで見れば、今回の暴力連鎖の峠は昨年10月であり、その後は減少傾向にある。他方、今回の暴力連鎖の特徴である単独あるいは数名のパレスチナ人によるイスラエル人攻撃については、実行犯の47%が20歳以下であり、女性が11%を占めている。女子中学生・高校生が衝突の最前線に立つようになったのは、今回が初めてである。今後、イスラエル占領地での暴力連鎖がどのように推移するか予見できないが、単独あるいは複数でナイフあるいは銃を使ってイスラエル人を攻撃する方法が、一つの攻撃手段として女性を含む若いパレスチナ人の中に定着したかもしれない。事件の74%は西岸(占領地)で起きている。エルサレム地域は16%である。同地域区分は、東西エルサレムを含むため、事件の半分が東エルサレム(占領地)で起きたと仮定すれば、事件全体の82%が占領地内で発生したことになる。昨年秋以降の暴力連鎖は、イスラエル軍の占領する地域が主戦場になっていることがわかる。

 イスラエル現政権と右派勢力は、占領地内での衝突増加を直視することなく、パレスチナ側の扇動が暴力増加の原因だと非難している。また同政権は、外国メディアによる「偏向報道」批判を強め、外国から財政支援を受けたイスラエルのNGOの活動に対する圧力を強化している。2月16日には、東エルサレム旧市外のダマスカス門付近で取材をしていた米『ワシントン・ポスト』紙のエルサレム支局長と西岸担当記者が、イスラエル警察に短時間拘束された。拘束された理由は、取材現場近くにいたイスラエル人が「扇動報道」をしているとの疑念を持ち警察に通報したためとも報道されている。このような事がイスラエル国内で起きること自体が異例であり、極めて内向きになったイスラエル国内政治の雰囲気を象徴する出来事といえるかもしれない。

(中島主席研究員 中島 勇)

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