中東かわら版

№63 リビア:トリポリの裁判所がサイフ・イスラームなどに死刑判決

 トリポリの裁判所は、カッザーフィー体制幹部の被告37人の裁判で、ムアンマル・カッザーフィーの息子であるサイフ・イスラームを含む9人に死刑(銃殺刑)を宣告した。サイフは2011年からジンターンの民兵組織(東部ベイダ政府支持派)に捕らわれており、出廷できなかった。死刑判決を受けた人物には、アブドッラー・サヌーシー元軍諜報局長、バグダーディー・マフムーディー元首相、アブーザイド・ドルダ元外国諜報庁長官が含まれる。罪状は、暴力扇動、抗議参加者の殺害、傭兵のリクルート、民間人への空爆、性犯罪など。その他被告については、23人に終身刑から5年の懲役刑、4人に無罪判決、1人に医療施設送致を言い渡した。リビアの刑法では60日以内の控訴が可能である。 

 判決には、東部ベイダの政府や国際社会から批判が寄せられた。トリポリと対立するベイダ政府のウムラーン法務相は、判決が出される前日に、裁判が公正なプロセスに基づいて行われていないことを批判し、国際社会は判決を受け入れるべきではないと述べた。リビア内戦の停戦調停を行っている国連リビア支援ミッション(UNSMIL)や、国際人権団体のAmnesty International、Human Rights Watchも同様に、弁護人不在のまま被告への尋問や公判が行われたり、家族との面会が長期にわたり拒否されたり、公正な手続きが踏まれていないことを批判した。 

 国際刑事裁判所(ICC)は過去数度にわたり、リビア国内で公正な裁判を行うことの難しさを指摘し、ICCでのサイフ・イスラームの裁判を求め、同人のハーグへの引渡しをリビア政府に要求していた。しかしリビア政府は引き渡し要求を拒否し、国内での裁判を決定していた。

評価

 判決にこのように大きな批判が向けられた理由には、今回の裁判が「リビアの夜明け」勢力が支配するトリポリで行われ、実質的には裁判所も同武装勢力の圧力下にあった可能性が高いことがある。国際刑事裁判所を通じてサイフの弁護人に任命されたジョン・ジョーンズ弁護士は、公判は「リビアの夜明け」民兵によって行われ、検察は被告に拷問による自白強要を行ったと指摘した。そうであれば、被告側が今回の判決を控訴したとしても、控訴が受理されない可能性も考えられる。他方、トリポリ政府や「リビアの夜明け」勢力は、ベイダ政府にはカッザーフィー体制時代の政治家が含まれていることを批判していた。

 サイフを始め37人の被告が、2011年リビア政変の武力抗争においてどのような形で関与したのかは明らかではない。しかし彼らがカッザーフィー体制による反体制派の武力弾圧を指示した点は明白であり、彼らの罪を公的に明らかにする何らかの作業(裁判、真実和解委員会など)は必要である。しかし、今回の裁判は、裁判における「正義」が国内紛争の文脈に巻き込まれてしまうと、「正義」そのものが実現しないどころか裁判自体が国内紛争に利用されてしまうことを表している。

(研究員 金谷 美紗)

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