中東かわら版

№56 サウジアラビア:リヤード近郊での自爆攻撃事件

7月16日、サウジアラビアの首都リヤードで内務省の大佐が殺害された上、リヤード南郊のハーイル刑務所付近にある検問所で自爆事件が発生、警備要員2名が負傷した。この事件について、インターネット上で「イスラーム国 ナジュド州」名義の犯行声明が出回った。声明によると「二重特殊作戦」を実行したのはアブー・ウマル・ナジュディーなる人物であるが、この人物は殺害された大佐の甥のアブドッラー・ファハド・アブドッラー・ラシード(サウジ国籍)である。なお、内務省の発表によると、犯人がサウジ国外に出た記録はない。

 

 写真:「イスラーム国」が発表した「アブー・ウマル・ナジュディー」の画像。

評価

 「イスラーム国 ナジュド州」は、5月にサウジの東部州で2度、6月にクウェイトでシーア派のモスクに対する自爆攻撃を行ったと発表しているが、今般の攻撃事件の対象はサウジの内務省の将校、及び刑務所であり、「イスラーム国」が激しく敵視するシーア派に属するものではない。また、ハーイル刑務所はサウジ国内でも著名な政治犯収容所で、拷問や劣悪な待遇などについての情報が取りざたされてきた。なお、サウジ内務省は、実行犯は殺害したおじの車両を強奪して逃走、検問所で停車させられた際に爆発したと発表している。「イスラーム国 ナジュド州」の犯行声明によると、実行犯は爆弾ベルトを身につけていたとされ、いずれの発表でも自動車爆弾を用いた犯行ではない。

ここから、今後「イスラーム国 ナジュド州」がサウジをはじめとするアラビア半島諸国の政府や為政者に対する非難や攻撃を強化するかが注目される。「イスラーム国」の広報活動では、従来から末端の戦闘員がサウード家やサウジを非難する演説が度々発表されており、サウジの刑務所に収監されているイスラーム過激派容疑者の「解放」を目指すとの発言も見られた。さらに、5月にはカリフを僭称するアブー・バクル・バグダーディーが「サルール家」(サウード家の蔑称)はラーフィダ(シーア派の蔑称)からアラビア半島を守ることができないと非難する演説を発表している。「イスラーム国」が、サウジなどの国内でシーア派を攻撃→国内の治安悪化を嫌う各国が警備や摘発を強化→「イスラーム国」が各国政府を「ラーフィダを保護している」と非難して政府の権威や正統性を攻撃、のような戦術で臨むようであれば、サウジをはじめとするアラビア半島諸国への攻撃についてそれなりに攻撃対象や広報の手法を練ったものと解釈できる。

 その一方で、サウジをはじめとするアラビア半島の諸国は、「イスラーム国」にとってヒト、モノ、カネなどの資源の調達地である。また、アラビア半島の諸国の資本が経営するアラビア語の大手報道機関の中には、シリアやイラクの紛争、およびイラクの政局などを「スンナ派対シーア派」の宗派抗争と認識し、「イスラーム国」の存在や活動に肯定的・同情的な書きぶりの記事も見られる。つまり、アラビア半島諸国への攻撃を活発化させることは、「イスラーム国」にとっては資源の調達と自派に対する肯定的な世論を失わせる結果を招きかねない不合理な行為に他ならない。サウジなどはアメリカなどと共に「イスラーム国」に対する空爆にも参加しているが、空爆開始後も世界各地から「イスラーム国」に合流した外国人戦闘員の数は増加しており、各国が取り組んでいる「イスラーム国」対策が効果をあげているとは言い難い状況である。王家や政府に対する「イスラーム国」からの非難や攻撃にサウジが国としてどのように対応するかによって、「イスラーム国」全体の消長にも大きな影響が出るだろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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