中東かわら版

№190 クウェイト:議会がシーア派議員の免責特権を剥奪

 3月28日、クウェイト議会は、サウジアラビア政府やバハレーン政府に対して批判的な言動をすることで知られているアブドゥルハミード・ダシュティー議員(シーア派)の免責特権を剥奪することを決定した。同議員は、バハレーンで拘束された活動家のための違法な資金調達に関与したとして2015年12月15日にバハレーンの下級裁判所によって懲役2年の有罪判決を欠席裁判で下されており、2016年1月7日にバハレーンの検察当局はクウェイト当局に対して必要な措置を講じるよう要求していた。

 ダシュティー議員は3月15日以降の審議を欠席しており、同議員は治療を受けるために国外にいると主張していた。しかし、議会内で複数の議員が本件は議員資格に抵触する理由なき無断の審議の欠席であると主張し、議員投票の結果、賛成40、反対5でダシュティー議員の訴えを退けることを決定した。これにより、同議員は議員資格を喪失し、免責特権も剥奪されることになる。なお、同議員は現在クウェイト国外におり、所在地を明らかにしていないものの、本人のTwitterアカウントを通じて議会の決定に対して批判をしている。

  

評価

 クウェイトでは国民のおよそ3割がシーア派と言われている。宗派上の少数派を形成しているものの、有力な商人の家系が複数存在し、シーア派の宗教行事の実施も広く認められるなど、クウェイト社会において宗派間の対立は顕在化してこなかった。議会内においても都市住民/部族、イスラーム主義/リベラルといった対立軸が強調されがちであり、スンナ派/シーア派という軸は必ずしも政治的な分断を招いてこなかった。

 しかしながら、周辺地域情勢の影響により、近年では議会内でも宗派的な言説が増えるようになっていた。2015年6月にはシーア派のファイサル・ドゥワイサーン議員が、同僚議員から宗派的な侮辱発言を受けたことに抗議して辞任しているほか、2015年4月にはサウジ主導のイエメン空爆を批判するツイートを投稿したハーリド・シャティー元議員(シーア派)が拘束されている。

 ダシュティー議員はこれまでサウジのイエメン空爆を批判したり、シリアのアサド政権への支持を表明したりするなど、その言動が国内外で問題視されていた。同議員に対しては「イランの手先である」との非難が議会内でも寄せられており、今回の議員資格剥奪に関連して国籍の剥奪にまで言及する議員がいたと報じられている。

 クウェイト政府は国家の安全と隣国との良好な関係維持の観点からこうした政府批判を封じたい考えであり、2015年3月にサバーフ首長はクウェイトと他国との関係を損なう発言をする人物に対し「ゼロ・トレランス(不寛容)」政策で臨むと述べている。しかし、ダシュティー議員の言動はクウェイト政府が進めている政策とは反するものであったが、これを問題視し、罪に問うようなことは、国内の宗派対立を助長させる恐れがある。また、クウェイトは周辺諸国と比べると言論の自由が尊重されていたが、2015年1月には政府批判色の強いワタン紙の閉鎖が決定されるなど、徐々に締め付けが厳しくなっている。

(研究員 村上 拓哉)

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