中東かわら版

№179 イスラーム過激派:「イスラーム国」の生態 構成員の名簿が流出

 イギリスのテレビ局やシリアの反体制派のニュースサイトは、「イスラーム国」の構成員2万2000人分の名簿が流出したと報じた。名簿は、構成員の氏名、組織内での通称、出身地、生年月日、シリアに潜入した国境通過地点、出身地での住所など23項目の情報を記載する形式となっている。名簿には多数の重複がある模様で、シリアの反体制派のニュースサイトはおよそ1700人分について分析した上で「殉教志願者」(=自爆攻撃要員)として記載されていた122人分の名簿を公開した。分析によると、名簿に掲載されている者のほとんどが外国人で、シリア人とイラク人の割合はそれぞれ1.7%、1.2%に過ぎなかった。「イスラーム国」の構成員の中で割合が高いのは、サウジアラビア、モロッコ、チュニジア、エジプトで、これらの諸国の出身者が全体の約3分の2を占める。上記の諸国については、国際機関なども「イスラーム国」に合流した者の送り出し数でも上位を占めると推定しており、今般の名簿の分析を通じ、送り出し側の情報と受け入れ側の情報とが一致していることが示された。

 公開された自爆要員(或いは自爆要員志願者)122名についても、サウジアラビア、チュニジア、モロッコ、エジプト、リビアが上位5カ国で、その出身者たちの合計は全体の4分の3に達している。自爆要員たちの学歴や職業は様々だったが、「シャリーア(イスラーム法)の知識の水準」という項目では「低い」と記録されている者が多い。

評価

報道によると、この名簿は「イスラーム国」から脱走した者が組織内の「警察長官」に当たる幹部の許から盗み出し、報道機関などに提供したとされる。11日付『ハヤート』紙は、名簿の流出を「イスラーム国」の統制が緩んでいる新たな兆候であると評した。名簿には、出身地での連絡先や「イスラーム国」へ合流を手引きした個人や組織の名称も記載されており、「イスラーム国」による人材勧誘をはじめとする資源の調達を解明する上で重要な情報と考えられている。注目すべき点は、「シャリーアの知識の水準」のように「イスラーム国」の尺度から見て知的水準の低い者たちが自爆要員として前線で使い捨てにされている点であろう。また、出身地別ではマグリブ諸国の出身者が自爆要員に占める割合が高く、これまで「イスラーム国」の声明類のモニターを通じて得られた感触が、「イスラーム国」側の資料で裏付けられた。

一方、名簿が公開された122名の多くは「これまでにジハードに参加した経験がない」と回答している。これは、イスラーム過激派への共感や個人の活動歴に注目して要注意人物を割り出すことが困難であることを示している。「イスラーム国」への合流に効果的な対策をとるためには、合流する者を「勧誘する者」、「旅程を支援する者」への対策が重要である。また、「イスラーム国」に向かう外国人のほぼ全てがトルコを経由していると思われることから、トルコによる出入国管理も極めて重要である。

(イスラーム過激派モニター班)

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