中東かわら版

№160 サウジアラビア・イラン:緊張緩和の見通し

 1月3日に国交断絶に至ったサウジアラビアとイランであるが、その後、双方から緊張緩和に向けたシグナルが発せられている。

 サウジ側は、1月6日付の『The Economist』において(インタビューは4日に実施)ムハンマド・サルマーン副皇太子が「(イランとの直接的な戦争は)地域における大惨事の始まりであり(中略)、そのようなことは許容できない」と言明していた。また、1月10日にはアラブ連盟において、1月21日にはイスラーム協力機構(OIC)においてそれぞれ緊急外相会合が開催された。両機構においてはサウジアラビアが主導権を握っており、いずれの会合においてもイランによる内政干渉や大使館襲撃を非難する声明が出されたが、イランに対して「良い隣人の原則に基づいて隣国と接すること」を期待するとし、「二国間の緊張緩和」を呼びかけるなど、一定の配慮も見られた。

 他方、イラン側は、既にイラン政府は大使館襲撃に遺憾の意を表明し、国内でも襲撃を行った者の拘束や担当官の更迭を行う等の措置をとってきたが、20日にハーメネイー最高指導者が「過去の英国大使館襲撃と同様、これは国家とイスラームに反している」と、初めてサウジ大使館襲撃を非難する声明を発出した。21日にサウジアラビアのジッダで開かれたOIC会合には、イランからアラーグチー副外相が出席しており、サウジ人であるマダニーOIC事務局長と握手している姿が報じられるなど、二国間の緊張緩和に肯定的な役割を発揮している。

 

評価

 国交断絶を頂点としたサウジ・イラン間の関係悪化は、あくまで外交上の紛争であり、これ以上対立がエスカレーションすることがないよう、両国とも慎重に対応していると言えよう。サウジ、イランともに相手方を非難する発言も出てきているが、国交断絶以前の両国の発言ラインを超えるものではなく、これをもって緊張が高まっていると言うことはできない。国交断絶して間もない時期にサウジの呼びかけで開かれたOIC緊急会合に、イラン政府から外相に次ぐ政府高官が出席し、サウジ側もそれを受け入れたことは、緊張緩和に向けた肯定的な材料の一つであろう。

 両国ともに、油価の下落にともなう経済苦境に直面している状況に変わりはなく、地域が不安定化していると諸外国から見なされ、投資が減退することを避けたいという立場は共通だ。特に、制裁解除を迎えたイランにとっては、サウジとの関係悪化によって諸外国のイランへの投資熱が冷えることは大きな打撃となるだろう。22日に日本がイランへの制裁解除をしたことは現地でも大きく報じられており、外交上の紛争が経済に悪影響を与えないよう、留意していると言える。

(研究員 村上 拓哉)

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