中東かわら版

№156 イスラーム過激派:「イスラーム国」がジャカルタでの襲撃事件の犯行声明を発表

 2016年1月14日、インドネシアの首都ジャカルタで複数の爆破が起こり、続いて銃撃戦が発生した。インドネシア当局の発表によると、事件では襲撃犯5名を含む7名が死亡した。一方、14日深夜(日本時間)には「イスラーム国 インドネシア」名義の犯行声明が出回った。

画像:「犯行声明」本文

声明の要旨は以下の通り。

  • 特別治安作戦で、インドネシアのカリフの兵士たちの一隊がジャカルタ市で十字軍同盟の国民の集団を標的とした(十字軍同盟とは、「イスラーム国」と戦っている同盟である)。
  • 作戦は複数の時限爆弾と軽火器と爆弾ベルトを装備したカリフの兵士4名が行ったもので、時限爆弾は同時に爆発した。作戦により、十字軍外国人と彼らの警備を担当していた背教者15名近くが死亡、複数が負傷した。
  • 十字軍同盟の国民と彼らを警備する者たちは、ムスリムの地では今日以後安全はないと知るがいい。

評価

 「イスラーム国」とインドネシアとの関連という文脈では、同組織が2015年に発表した英字機関誌『ダービク』11号でインドネシアなどで日本の外交団を攻撃する案はどうか、という文言があったことが記憶に新しい。つまり、「イスラーム国」が世界各地に組織を拡大しているという立場をとるならば、インドネシアでの作戦行動は既に「予告」されていたということになる。その一方で、「犯行声明」の内容は非常に大雑把なもので、ここから攻撃対象についてどのような意図があるか推定することはできない。また、当局の発表に比して「戦果」が誇大に発表されている点はやむをえないとして、実行犯の人数が当局発表と異なっている点が気にかかる。実行犯の人数や氏名を正確に発表し、彼らの動画や画像を発信すれば「犯行声明」の信憑性や犯行主体の組織性はより確かとなり、インドネシア国内に「イスラーム国」の確固たる基盤があるとの宣伝効果も高まるはずであるが、現時点ではそのような情報は発信されていない。

 インドネシアなど東南アジア諸国からも、イラク・シリアで「イスラーム国」に合流した者が多数いた模様で、彼らの一部は自爆要員やプロパガンダ動画の出演者として画像や名前が公開されている。インドネシアからは、2014年の推計で270名、2015年秋ごろの推計で700名が「イスラーム国」に合流し、そのうち200名以上がインドネシアに帰国していたとされている。「イスラーム国」の下で戦闘や軍事訓練の経験を経た者が出身国で組織的に破壊活動を行うことは、インドネシアだけでなく「イスラーム国」への人員の供給源となっている諸国にとって重大な懸念事項である。その一方で、今般の襲撃事件が「イスラーム国」対策強化の結果として諸外国から「イスラーム国」への人員の合流が困難になったため、「イスラーム国」の支持者や構成員が送り出し国側に滞留して事件を引き起こした場合、これを「イスラーム国」の拡大とみなすわけにはいかない。従来は、「イスラーム国」への人員の送り出しや彼らの越境移動に対する取締りが不徹底だったため、イラク・シリアで同派に合流する外国人戦闘員らが増加、これが「イスラーム国」の活動を支える柱の一つとなってきた。こうした人員が送り出し国側に滞留することになれば、「イスラーム国」向けのヒト・モノ・カネなどの資源の供給が停滞することを意味するため、最終的には「イスラーム国」の打倒に資することとなろう。つまり、関係国が「イスラーム国」対策に真剣に取り組むならば、送り出し国はこれまで「イスラーム国」に送り出されてきた資源や、資源調達のためのネットワークと自国内で対峙することが必須となる。このため、短期的には送り出し国側で「イスラーム国」のために活動していた集団や、「イスラーム国」の支持者・同調者が治安上の事件を引き起こす可能性は上がることとなる。

 過去数年間は、イラク・シリアでの紛争で利用価値があるから、或いは自国内の治安悪化を恐れるなどの理由で、「イスラーム国」への資源の送り出し国やその経由地での対策は不徹底なものだった。「イスラーム国」による襲撃事件が、2015年11月のパリの襲撃事件や今般のジャカルタでの事件のような形で送り出し国側で発生することが、送り出し国が真剣に「イスラーム国」対策を採るようになる契機となるならば、それは「イスラーム国」を衰退させる効果を持つこととなろう。一方、これらの事件が「イスラーム国」に対する不安や恐れを増幅させる結果になれば、模倣やいたずらも含め、世界各地で「イスラーム国」による攻撃を誘発させることになろう。

(イスラーム過激派モニター班)

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