中東かわら版

№151 トルコ:イスタンブルで自爆攻撃の発生

 1月12日(火)午前10時20分(現地時間)、イスタンブルの旧市街にあるスルタンアフメト地区で自爆攻撃とみられる爆発があり外国人観光客ら10名が死亡、15名が負傷したと報じられた。

 この自爆攻撃について、発生当初トルコの複数のメディアは「イスラーム国」に関連した者ないしクルディスタン労働者党(PKK)による犯行という両方の可能性を示唆していたが、同日午後、クルトゥルムシュ副首相が、自爆攻撃を行った犯人はシリア国籍であると公表した。さらに、同日に開かれた記者会見でエルドアン大統領は「イスラーム国」に関係するシリア国籍の者の犯行であると断定した。

 最大野党の共和人民党(CHP)のクルチダルオール党首は党内の会合で「現在の政府には国を統治する能力がない。三流の人たちに政権運営は出来ない」と政府を強く批判、エルドアン陣営の退任を求めた。同じくCHPのヴェリ・アーババ副党首は、今回の自爆攻撃に関して潜在的な自爆攻撃犯がトルコ国内に多数存在しているとして、トルコ国家情報機構(MİT)の責任も追及している。

 また、親クルド系政党である人民の民主主義党(HDP)のデミルタシュ共同党首は、「HDPは、今回の事件を起した犯人が正義の下にさらされるまで最善を尽くすことを誓った。この事件を強く非難するとともに、他の事件(2015年10月10日、アンカラで発生したトルコ史上最大の犠牲者を出した自爆攻撃事件を指していると思われる)のように未解決のまま終わらないことを我々は望んでいる」との声明を発表した。

 

評価

 今回、爆発が発生したスルタンアフメト地区は、世界遺産のブルーモスクをはじめ歴史的建造物が立ち並ぶ、トルコ国内で最も有名な場所の一つである。トルコを訪れた際は、誰もが必ず一度は足を運ぶとされる場所で常に観光客で賑わっており、ホテルやレストラン、土産物店なども林立している。2015年10月に発生したアンカラでの爆破事件だけでなく、イスタンブルでも、これまで何度も爆発事件は発生しているが、今回のスルタンアフメト地区での「テロ行為」は、内政を不安定化させ現在の政権に打撃を与えるのみならず、観光大国であるトルコに経済的にも計り知れないほど大きなダメージを与えたと言える。

 当初トルコメディアが報道したように、犯人像として「イスラーム国」とPKKの双方の可能性はあるものの、トルコ南東部で軍と衝突を繰り返しているPKKがイスタンブルのような大都市で一般市民を標的とした「テロ行為」を行えば、さらに軍や政府当局からの締め付けが厳しくなるだけでなく、2015年の総選挙で親クルド政党として初めて議席を獲得したHDPに対する国民の風当たりも強くなることが予想され、PKKがイスタンブルでこのような事件を起すインセンティブは少ないと考えられる。また、正式な犯行声明は出されていないものの、エルドアン政権に効率的かつ大きな打撃を与えることを最大の狙いとしていると考えれば、PKKよりも「イスラーム国」による犯行と見ることが妥当だろう。

 現在、トルコをとりまく情勢は日々不安定さを増しており、政権を担うエルドアン大統領に対する国民の不満も高まりをみせている。「イスラーム国」に関連して政権とクルド系住民やPKKとの対立は激しさを増し、国外に目を転じれば、「イスラーム国」との戦闘、昨年末に発生したロシア空軍機撃墜に端を発した経済制裁が1月1日付で発動されている。今回の事件を受けてトルコへの観光客離れも一層深刻なものとなろう。

 エルドアン人気を支えてきた好調な経済状況は減速どころか急ブレーキ状態に陥っている。トルコ中央銀行は利上げの検討を発表しているが、経済が持ち直すかどうかは以前不透明なままであり、トルコ国内の治安悪化も懸念されている。トルコの不安定化は中東域内にも波及する恐れがあり、政権運営の早急な持ち直しが望まれる。

(研究員 金子 真夕)

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