中東かわら版

№121 サウジアラビア:イエメン空爆を巡る人道問題の追及

 サウジアラビア主導の連合軍が行っているイエメン空爆に対し、人道問題を引き起こしているとの追及が厳しくなっている。同問題は、10月26日にイエメン北部のサアダ州ハイダーンに所在する「国境なき医師団」が支援する病院が、連合軍の爆撃に遭ったことで、更に注目を集めるようになった。「国境なき医師団」は、病院の位置について連合軍側にGPSの情報を毎月提供しており、「連合軍は「国境なき医師団」の病院であることを知っていた(はずである)」と主張している。また、国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、民間人を攻撃することは戦争犯罪であるとし、サアダ州で5月から7月に行われた連合軍による空爆13件の現地調査を行ったところ、多数の子どもを含む数百人の民間人が連合軍の空爆により死亡ないし負傷したとの報告書を10月6日に公開した。

 連合軍は同疑惑を否定しており、10月27日、連合軍のアシーリー報道官は、部隊はサアダ州で作戦を行ったものの、病院への攻撃は行っていないと述べた。また、11月11日、UAEのアラウィー空軍司令官は、空爆はフーシー派との戦闘を行う地上部隊を支援することに集中している、標的への攻撃は三重、四重の承認を必要とするものであり、巻き添え被害は最小限になるよう制御されていると述べた。

 他方、11月11日、ハモンド英外相はBBCのインタビューに対して、「(疑惑の)否定だけでは不十分である」と述べ、英国政府としても同問題に懸念を抱いていることを表明した。同外相は、国際人道法が遵守されているかどうか適切な調査を行う必要があるとし、もし違反があるのであれば英国からサウジへの武器の売却は停止すると述べた。 

 

評価

 連合軍の空爆による人道問題の発生は、開戦当初よりイランなどから問題視されてきたが、イエメンのハーディー政権の正統性を認め、湾岸諸国と深い関係にある欧米諸国政府は、空爆作戦に対する支持を表明していた(開戦当初の国際社会の反応については「サウジアラビア:イエメンへの軍事介入に対する国際社会の反応」『中東かわら版』No.279(2015年3月27日)を参照)。しかし、紛争が長期化し、国際人権団体による追及が厳しくなるにつれ、欧米諸国政府としても何らかの対応をとることを迫られている状況が出てきたといえよう。

 もっとも、英国にとってサウジアラビアは最大の武器売却先であり、2014年は17億ドル相当の取引が行われた。ハモンド外相は取引停止の可能性について言及したものの、10月31日にはバハレーンでの英国海軍基地の定礎式を行ったばかりであり、英国・湾岸諸国の軍事関係に直ちに影響が出ることはないであろう。また、米国は兵站、インテリジェンスの分野で空爆作戦に「後方支援」している立場であり、仮に連合軍による「誤爆」が生じているのであれば、その責任の一端は米国にも存在することになる。11月10日、ドバイの航空ショーに参加するためUAE訪問中であったブラウン米中央空軍司令官は、イエメンでの軍事作戦を行う連合軍に感銘を受けていると述べ、米国とこれらの諸国は同じ考え方を持っていると述べた。

 そのため、欧米諸国は、イエメン紛争の人道問題が拡大する前に、和平交渉によって紛争を終結させることに展望を見出している。紛争が泥沼化することを避けたいという点ではサウジアラビアも同じ動機を有するが、和平交渉にあたっては、フーシー派による占領した地域からの撤退と収奪した武器の返還を求めるという点で譲歩する兆しは見られない。10月上旬の時点で、フーシー派は国連安保理決議2216号の受け入れを表明しており、サウジのムアッリミー国連大使は11月中旬にイエメン紛争に関する和平交渉が開催されることに楽観的であると述べたものの、実際の紛争の終結にはしばらく時間を要するであろう。

(研究員 村上 拓哉)

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