中東かわら版

№118 イエメン:サイクロン被害

 2015年11月に入ってわずか10日の間に、イエメンの南東部に相次いで大型のサイクロン「チャバラ」と「メグ」が相次いで襲来した。これにより、同国南東の海上に位置するソコトラ島をはじめとする各地で洪水や家屋の倒壊、農業・漁業設備などに被害が出た模様である。9日付、10日付の『ハヤート』紙は、これまでに「チャバラ」の襲来で11名、「メグ」の襲来で6名が死亡し、4万4000人が避難、数十万人の被災が見込まれると報じているが、サイクロン被害により交通や通信が途絶している地域もあるため、被害の全容や救援活動の状況には不明な点が多い。

評価

 イエメンでは、サイクロンの襲来を受けるまでもなく2011年の政変後の政治の混乱、治安の悪化、経済停滞により人民の生活水準が著しく悪化していた。これに輪をかけたのが2015年3月にハーディー大統領(当時)がフーシー派・サーリフ元大統領派に軍事的に敗北し、サウジに逃亡、これを受けてサウジを中心とするアラブ諸国の連合軍が軍事介入し戦闘が激化したことである。紛争に伴い、イエメンには合法的な政府と主張する主体が二つ存在することとなり、被災状況や救援活動についての情報が体系的に発信されない事態に陥っている。さらに、『ハヤート』紙をはじめとするアラビア語の報道機関も、紛争の戦況報道に精力を傾け、サイクロンについては欧米の報道機関のほうが強い関心を払っているといえる。アラビア語の報道機関を見る限り、サウジなどからの「拠出表明」や「物資の搬入」についての報道があっても、それが実際どの程度現地の状況に反映されているかについての情報が乏しい。現地で活動する援助団体も、連合軍の「誤爆」や様々な主体からの襲撃に悩まされており、イエメン人民の窮乏についての情報発信も、実際の援助の提供も困難な状況である。イエメンの紛争や人道状況については、欧米諸国の権益との関連が薄かったり、報道の量・質に問題があったりして見えにくいものとなっているが、そうした中でさらに被害が拡大することが懸念される。

(主席研究員 髙岡 豊)

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