中東かわら版

№101 イラン:岸田外相のイラン訪問(投資協定の実質合意)

 10月12日から13日、岸田外相はイランを訪問し、ロウハーニー大統領、ザリーフ外相、ネエマトザーデ商工鉱相、ザンギャネ石油相らと会談した。ザリーフ外相との会談後には共同声明が発出され、①イランとP5+1との核合意である「包括的共同行動計画(JCPOA)」の履行プロセスを支援するため、日本が原子力安全向上支援としてイランの専門家への研修の実施など人材育成支援を実施していくこと、②日・イラン間の経済関係の強化に向けて、日・イラン投資協定に実質合意したこと、③二国間関係を包括的に強化・拡大すべく省庁横断型の「日・イラン協力協議会」を両国間に設置すること、また、同協議会の枠組みとして環境、経済協力、貿易・投資、医療保健、文化・スポーツ、知的交流の各分野における作業部会を設置すること(下図参照)が発表された。

 

出典:外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/me_a/me2/ir/page4_001453.html)

 

評価

 7月の核合意成立後、欧米諸国からイランへの閣僚級要人訪問が相次ぐ中、日本はやや出遅れた形になっていたが、岸田外相による今次イラン訪問は多くの成果を伴うものであった。まず、9月に開始された投資協定の交渉については(「イラン:日本との投資協定交渉の開始」『中東かわら版』No.85(2015年9月7日)を参照)、異例のスピード合意となった。協定の発効までには、署名、承認のプロセスを経なければならないが、双方の外務省レベルでは署名までの作業を急ぐことに異論はないだろう。承認には議会での審議が必要であるため、日本では年明けの常会に条約案が提出される公算が高い。臨時会が年内に開かれる場合、署名作業が間に合えば、そこで条約案が提出される可能性もあるが、スケジュール上はかなり余裕のない日程である。

 JCPOAの履行プロセスにおいて、日本が原子力の安全利用の面でイランを支援していく姿勢を打ち出すことが出来たのも肯定的に評価できる。かねてより、核兵器の非保有国でありながらウラン濃縮を認められてきた日本と同等の立場を要求してきたイランにとって、原子力分野での人的交流を日本と進めることは、自らの核開発が平和目的であることをアピールするのに好材料となろう。日本側にとっても、原子力の技術協力では他国より優位なステータスを利用できるため、中・長期的かつ安定的な関係をイランと構築するのに有用な分野である。

 また、日・イラン協力協議会の設置は、二国間のチャンネルを制度化するものであり、今後の二国間の協力関係に関する協議の基盤となろう。作業部会は、環境や文化・スポーツなど、多角的な分野に広がっているが、当面の二国間関係の焦点は、貿易・投資、経済協力の分野となろう。イラン側からは、日本による原油輸入の再開を期待する声が高いが、ザンギャネ石油相が岸田外相との会談後に述べたように、石油化学、石油精製、石油流通、LNGの分野で協力していくことも求めている。イラン側の報道によると、岸田外相には23人からなる日本企業の代表団が同行しており、イランのプロジェクトへの参入の可能性について関係閣僚らと協議したと報じられている。岸田外相は日本企業の本格的な経済活動はJCPOAで規定されている「履行日(Implementation Day)」以降と述べているが、企業は既に大きく動き始めているといえよう。

(研究員 村上 拓哉)

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