中東かわら版

№83 サウジアラビア:サルマーン国王の米国訪問

 9月4日、サルマーン国王は、ムハンマド・サルマーン副皇太子らとともに米国を訪問し、オバマ大統領らと会談した。サルマーン国王にとって、国王就任後初の米国訪問である。サルマーン国王の訪米は、当初、5月にキャンプ・デービッドで開かれた米・GCC首脳会談に出席する方向で調整されていたものの、サウジ側の理由によりキャンセルとなっていた(同会談については「GCC:キャンプ・デービッドで米・GCC 首脳会談」『中東かわら版』No.20(2015年5月15日)を参照)

 サルマーン国王とオバマ大統領との会談では、イラン、シリア、イエメン、イラクなどの地域情勢、サウジ・米二国間関係の強化について協議された。会談の焦点は、核合意によって米・イラン関係が接近し、制裁解除によってイランの影響力が高まるなか、いかに米国がサウジ側の懸念を払拭するか(あるいはいかにサウジが米国側から関与を引き出すか)にあった。会談後、ジュベイル外相は、「オバマ大統領の保証にサウジは満足している」と述べ、一定の成果があったことを強調した。

評価

 5月のサルマーン国王の訪米延期は、対イラン外交を巡りサウジ・米国間に深刻な溝があることの象徴として、しばしば取り沙汰されてきた。サウジは公式にはイラン核合意に対して支持を表明しているものの、その代償としてイランがシリアやイラク、イエメン、レバノンで行っている関与を強めること、あるいはイランの関与に対して欧米諸国が宥和的な対応をとるようになることを警戒している。この点については、米国、そして欧州諸国も、サウジアラビアと共同歩調をとることを表明しているものの、軍事的な手段も含めた実質的な関与が得られるかどうかが、サウジにとっては大きな不安要素となっている。ジュベイル外相の発言は、米国から何らかの言質をとることに成功したことを示唆させるが、米国が具体的に何を保証するのかは、依然として不明なままである。

 もっとも、2011年以降、サウジアラビアは、GCC合同軍の名目によるバハレーンでの治安維持作戦(2011年)、米国主導のシリア空爆への参加(2014年~現在)、イエメン紛争への介入(2015年~現在)と、複数の軍事作戦を遂行してきた。これは、米国による地域情勢への関与の低下の結果、地域大国として台頭してきたサウジがその負担を肩代わりするようになったと考えることもできよう。現在、米国はサウジへの武器移転を進めることを優先課題としているが、地域の同盟国の能力が向上すれば、米国はその分だけ地域情勢への関与の負担を軽減することができる。湾岸危機後のように、かつてはサウジや周辺国内に駐留する大規模な米軍が地域の安定を維持する役割を担ってきたが、今後はサウジ軍が紛争の前面に立ち、米軍は兵站やインテリジェンスなどの後方支援を中心に担うという協力体制が、新たに構築されていくのかもしれない。

(研究員 村上 拓哉)

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