中東かわら版

№77 イラク・シリア:「イスラーム国」の生態 服装規制

 2015年8月27日、『ハヤート』紙はシリアの反体制派寄りの広報機関である「シリア人権監視団」からの情報として、「イスラーム国」の「フラート州」(シリアのダイル・ザウル県の東南端とイラクのアンバール県西端の一部)のシリア側の地域であるアブー・カマール市で、男性の服装規制を導入したと報じた。報道によると、「ヒスバ」と呼ばれる「イスラーム国」の取り締まり機関が、男性に対し「タイトな服装」を禁止し、そのような衣類を販売する店舗に対し20日の猶予期間を経過した後は商品を没収すると発表した。禁止の理由は、ズボンのような服装はイスラームの敵たちの慣習であるにとどまらず、そのような服装をして礼拝の際に臀部や股間の線が見えるためムスリムの礼拝を堕落させたとのことである。

評価

「イスラーム国」が占拠した地域の住民に様々な規制を科していることは周知であるが、これまで同派による服装の規制は写真1の通り女性に対するものが専らだった。しかし、女性の服装規制について「ヒンマ文庫」が配布した小冊子によると、女性を人目にさらさないよう必要な場合を除いて外出させないこと、覗き見を防ぐため高層建築物に覆いをかけることまでもがムスリムの義務とされており、女性の服装規制は実は男性にとっても生活の細部を規制するものであった。

写真1:「イスラーム国」が着用を義務付けた「正しいヒジャーブ」

 今般、一部の地域とはいえ「イスラーム国」が男性の服装にまで干渉する規制を導入したことは、同派による文化的な多様性や個性の否定が異教徒の信仰や施設だけでなく、ムスリムに対しても広がりつつあることを示している。

 もっとも、イラクやシリアでは都市部や若年層を中心に「イスラーム国」が「イスラームの敵の慣習」と評した西洋風の服装をしている者は性別を問わず多い。今般のような規制が「イスラーム国」の正式な方針として同派が占拠した地域全体に及ぶようだと、女性の服装や生活についての規制と並び、地元の社会との摩擦要因となろう。

写真2:ジーンズを着用した「イスラーム国」の殉教者

 また、「イスラーム国」が発信する戦闘や殉教者、「統治」活動の映像・画像には、西洋風の服装をした同派の構成員が度々現れている。男性に対する服装規制については、この矛盾を「イスラーム国」がどのように合理化するのか、また「イスラーム国」に合流する外国人戦闘員のうち、西洋的な服装に慣れ親しんだ者たちも服装規制の対象になるのかなど、「イスラーム国」の対応に関し興味が尽きない。

(イスラーム過激派モニター班)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP