中東かわら版

№72 UAE:モディ・インド首相の訪問

 8月16日から17日、インドのモディ首相はUAEを訪問した。インド首相によるUAE訪問は1981年のインディラ・ガンディーによる訪問以来で34年ぶり。同首相はムハンマド皇太子やムハンマド・ラーシド副大統領(ドバイ首長)らと会談し、二国間の関係強化について協議した。

 17日に発表された共同声明では、包括的な戦略的パートナーシップを結び、経済分野のみならず安全保障などでも関係を強化していくことが謳われた。過激主義やテロリズムを否定するとともに、宗教をこれらの活動に結びつけることを非難することで一致したほか、テロ対策、資金洗浄・麻薬密売などでの司法協力、両国の国家安全保障顧問と国家安全保障会議(NSC)との間で半年に1回協議を開催、合同軍事演習の実施、湾岸・インド洋での海洋安全保障協力、インドでの防衛装備品製造に関する協力、戦略安全保障対話の実施などを進めていくことが発表された。

 経済分野に関しては、UAEによるインドのインフラ事業への投資を促進するため750億ドル規模のUAE・インド・インフラ投資基金の設置、UAEのインフラ開発へのインド企業の参入、インドの石油戦略備蓄計画へのUAEの参入、5年以内に二国間貿易を60%増加、UAEの中小企業支援、再生可能エネルギー・持続可能な開発・乾燥農業・砂漠の生態学・都市開発・先端医療などの分野での科学・高等教育協力、衛星の共同開発・打ち上げや宇宙関連の地上施設での協力、核の平和利用での協力などを進めていくとされている。また、外交分野では、国連安保理の早期改革およびインドの常任理事国入りをUAEが支持するとした。

 

評価

 UAEとインドの経済関係は近年急速に発展している。現在UAEにとってインドは中国に次ぐ第二の貿易相手国であり、インドにとってUAEは中国、米国に次ぐ第三の貿易相手国である。また、UAE国内には250万人を超えるインド人が居住しており、UAE国内で最大の共同体を形成している(なお、UAE国民は100万人超であり、自国民の約2倍のインド人が国内にいることになる)。彼らの多くは建設現場などで働くブルーカラーの労働者であるが、自由貿易地区には多くのインド企業が進出しており、ホワイトカラー職の者も少なくない。

 今回の訪問では、これらの貿易・労働分野に加えて、投資や科学技術分野など多様な分野で協力を拡大する方針が両国から打ち出された。ドバイを中心にハブ機能を高めつつあるUAEと高い経済成長率が期待されるインドの経済関係は今後もますます拡大していくだろう。また、経済一辺倒だった二国間関係が、安全保障分野にも波及してきたことは意義深い。具体的な協力としては海洋安全保障の分野以外では大きな動きは見られないだろうが、定期的な対話の実施は両国の国際認識や戦略のすり合わせに資するだろう。

(研究員 村上 拓哉)

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