中東かわら版

№60 中東情勢研究会:ブーテフリカ政権の炭化水素政策

開催日時:平成27年7月14日(火)18時~20時、於:中東調査会

報告者: 高橋雅英(上智大学大学院修了)

報告題目:ブーテフリカ政権の炭化水素政策-炭化水素産業における制度改革-

出席者:青山弘之(東京外国語大学教授)、錦田愛子(東京外国語大学准教授)他5名、中東調査会:金谷、村上、髙岡

概要

*高橋氏より、以下の通り報告した。

  1. 本報告の目的は、アルジェリアのブーテフリカ政権の炭化水素政策の考察と、同国におけるエネルギー問題と政権の安定性について検討することである。アルジェリアの政治情勢は、「アラブの春」の影響をほとんど受けず、2014年4月にはブーテフリカ大統領が4期目の当選を果たすなど安定しているように見える。その一方で、最近の産油量の低下と国際石油価格の下落が政権の不安定要因となっている。
  2. アルジェリアは炭化水素部門から得られる収入に依存する経済であり、依存の割合は総輸出額の98%、財政収入の67%、GDPの31%を占めている(2013年度)。このため、アルジェリアは国営石油会社(ソナトラック Sonatrach)を介してほとんど全ての外貨を得ている状態にある。ソナトラックは、1963年に設立され、広範な自由裁量権と炭化水素産業での特権的地位を享受してきた。ブーテフリカ政権は2005年に炭化水素法を制定し、炭化水素部門への外資導入とソナトラックの経営への介入強化を図った。その一方で、ブーテフリカ政権は政府公的支出を増加させ、公務員の増員、燃料補助金、若者向け融資優遇などの懐柔策を講じて内政を安定させたが、人件費の増加などで2009年以降財政赤字が拡大している。なお、公務員の中でも特に警察官の増加が顕著で、2009年に9万人だった警察官は2014年には20万人に達すると見られている。国内向けの懐柔策の財源には、石油収入に基づく外貨準備と歳入調整基金(FRR)が活用された。FRRは政府系ファンドの一種で、余剰石油収益を積み立てる基金である。ブーテフリカ政権の炭化水素政策と内政をまとめると、同政権はソナトラックへの管理を強化し、そこから上がる収入をFRRを通じて国内の懐柔に充てることに特徴付けられる。
  3. ブーテフリカ政権の不安要因としては、2010年に発生した「ソナトラック汚職事件」のように、軍諜報機関などが、ブーテフリカ大統領による身内への権限移譲の試みに反発したとみられる事件が発生したこと、油価の下落により外貨準備高やFRRの消耗が著しいことである。特に、現在のままFRRを用いて財政赤字を補填していると、FRRはあと2年ほどで枯渇すると考えられている。

*質疑では、ブーテフリカ政権による国内の懐柔策の実態や、ソナトラックの管理を通じた石油収入の分配がアルジェリアの政治体制がもつ様々な利権の中でどのように位置づけられるかについて質問やコメントがでた。また、最近アルジェリアで導入された輸入自動車に対する極端に厳しい安全基準と、油価の下落を原因とする外貨収入の減少との関連について質問が出た。

(主席研究員 髙岡 豊)

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