中東かわら版

№41 アフガニスタン:ターリバーンが「イスラーム国」を拒絶

 2015年6月16日、ターリバーンは「イスラーム首長国(注:ターリバーンの自称)指導評議会」名義で「アブー・バクル・バグダーディー師と彼の同胞であるムジャーヒドゥーンへ」と題する書簡を発表した。書簡の要旨は以下の通り。

  • アフガニスタンは、アジア大陸へのイスラームの流布においてアラビア半島に次ぐ役割を果たしてきた。アブドッラー・アッザーム師、ウサーマ・ビン・ラーディン師、アブー・ムスアブ・ザルカーウィー、ハッターブらは、皆アフガンのジハード学校の生徒である。アフガン人民のジハードはイギリス、ロシア、アメリカに対し犠牲の末に勝利を重ねており、我々は本年更なる勝利を期待している。アフガン人民はイスラーム首長国の指揮下でジハードの戦列を固めてきた。我々が言いたいのは、イスラーム首長国が当初から世界的不信仰に対しジハードの戦線を一体化する点に集中してきたということである。イスラーム首長国は、過去も現在もその戦列を割ろうとする陰謀を打ち破ってきた。それ故、イスラーム首長国はアフガンにおけるジハード活動家らに対し、イスラーム首長国だけから指揮を受けることをジハード活動の条件としている。
  • イスラームの戦線を一体とすることは、シャリーア上の義務である。アフガンでのジハードはアメリカとその傀儡にひとつの旗の下で立ち向かうものでなくてはならない。アフガンでイスラーム首長国と並列する戦列を作る必要はシャリーア的にも論理的にもない。
  • イスラーム首長国は、あらゆるシャリーア的・現世的利益は戦列の一体性にあると考える。様々な名称や旗印で戦列を割るジハード活動は、イスラーム、ムスリム、ジハードにとって害である。
  • イスラーム首長国は、一つの旗印、一つの司令部の下でアメリカとその同盟者たちに大敗を喫せしめてきた。アメリカやイスラームの敵共は、この戦列を混乱させることによって自分たちの占領政策を成功させようと努めてきたのである。
  • アフガン以外にもアメリカの不正な陰謀に苦しんでいる諸国があるが、これらの国々で勝利を収められないのは、司令部の統一ができていないからだ。それ故、イスラーム首長国は統一こそが宗教的・ジハード的に最大の利益であると考えている。そして、戦列の統一に反するいかなる集団も、イスラーム、ジハード、ムジャーヒドゥーンの利益に反するとみなす。
  • イスラーム首長国は、全世界のムスリムから物的、精神的援助を受ける必要がある。あなた方(注:「イスラーム国」を指すと思われる。)には、イスラーム首長国の幹部や公式の広報機関以外を通じてイスラーム首長国の情報を集めることをしないよう希望する。
  • イスラーム首長国は、アフガンにおけるアメリカ、NATOの敗北を、世界的な十字軍の敗北であると考える。イスラーム首長国は、ムジャーヒドゥーンの忍耐と一体性がよりよい形で続くことを希望する。また、全ムスリム、ジハード運動に対し、このジハードを全面的に支持するよう希望する。そして、ジハードの戦列を乱し、ムジャーヒドゥーンを失敗させるようなことをしないよう希望する。
  • イスラーム首長国は単一の司令部の下、多大な犠牲を払って成果を上げてきたが、戦列を割る道が開かれればこのような犠牲が無駄になってしまう。
  • 世界各地でイスラーム主義の諸派や活動家が困難な情勢下で犠牲を払っているが、あなたがたは彼らの利益に反することをしたり、彼らの戦列を乱したりしてはならない。
  • アフガンにおいても多くの者がジハードを貶めようと活動しているが、あなた方がアフガンから遠くにいて、アフガンの状況をよく知らないのをいいことに、そうした堕落した連中があなた方の名前(注:「イスラーム国」という名称のこと)を利用することがあってはならない。

  • (戦列を乱すことの)危険性に注意せよ。あなたがたは、自分たちの宗教的責任に鑑み、イスラーム首長国の勢力や戦列の統一の維持を支援すべきだ。そして、遠くからあれこれ決定を出してはならない。

評価

 書簡は、一応バグダーディーに対し「師」という敬称を用い、「イスラーム国」の者をムジャーヒドゥーンと呼んではいるが、その内容はアフガンにおける「イスラーム国」の活動に対する全面的な拒絶である。「イスラーム国」は、パキスタンのターリバーン運動(TTP)からの離脱者らからなる「ホラサーン州」を自らの配下として認知しているが、今般の書簡はアフガンで「イスラーム国」に同調する者たちを戦列を乱す堕落した者と決め付け、「イスラーム国」には彼らに利用されてはならないと述べている。

 「イスラーム国」は2014年6月末にカリフ国を僭称して以来、全世界のイスラーム過激派にカリフに対する立場を明らかにすることや傘下に加わることを要求してきた。こうした態度に対しては、既に「アラビア半島のアル=カーイダ」が戦列を割る行為であると批判し、対抗する動きを示している。今般、ターリバーンが「イスラーム国」を拒絶し、アフガンにおける同調者が「イスラーム国」に忠誠を表明する行為をジハードやムスリムの利益に反すると断定したことにより、ターリバーンと「イスラーム国」支持者との間での競合が激化し、紛争に発展することも想定すべき局面に至った。

 現時点では「イスラーム国」が世界各地に拡張しているかのように見えるが、彼らが各地の既存のイスラーム過激派と対立・競合することは、世界的に見ればそれほど広くも厚くもないイスラーム過激派の支持層や彼らの資源を、イスラーム過激派同士の内紛で浪費する結果になりかねない。一見華々しい「イスラーム国」の伸張が、大局的にはイスラーム過激派全体の運動や現象に与える悪影響も見逃せない。

(イスラーム過激派モニター班)

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