中東かわら版

№33 シリア:連合軍がアル=カーイダと共闘

 6月に入ると、「イスラーム国」がアレッポ県北部で攻勢に出て、アレッポ市北郊の集落スーラーンを制圧した。この集落は、トルコとの国境通過地点であるバーブ・サラーム、トルコとアレッポとを結ぶ幹線道路上の都市アアザーズにほど近い要衝である。同地を「イスラーム国」が占拠することにより、アレッポ市の一部を占拠する反体制派は、東、南、西から政府軍に包囲され、北からの補給路を「イスラーム国」によって断たれるという苦境に陥ることになる。反体制派は、政府軍が「イスラーム国」の攻勢に先立ってスーラーン付近で「ヌスラ戦線」などを爆撃したことを、「イスラーム国」に対する支援であると非難した。

 一方、アメリカなどの連合軍は、6日から7日にかけて「イスラーム国」がスーラーン周辺で「ヌスラ戦線」、「シャーム自由人運動」と交戦した際に、「イスラーム国」の集結地点を爆撃した。反体制派側に立った広報活動をしている「シリア人権監視団」は、この爆撃を「ヌスラ戦線」と「シャーム自由人運動」に対する間接的な支援であると論評した。

 

評価

 「イスラーム国」、「ヌスラ戦線」を始め、シリアで活動する武装勢力の大半は、トルコ経由でヒト・モノ・カネなどの資源を調達しているため、トルコとの国境地帯やトルコに通じる幹線道路をいずれの勢力が制圧するかは、個々の武装勢力の盛衰だけでなくシリア紛争全体の展開についても重要な意味を持つ。シリア政府軍や連合軍が行う爆撃の時期や対象について、諸派が過剰で的外れともいえる反応を示すのは、トルコとの交通が諸派にとって重要な意味を持つことの裏返しである。しかし、ここでアメリカなどの連合軍が「ヌスラ戦線」や「シャーム自由人運動」を支援するような形で「イスラーム国」を爆撃したことには、さらに重大な意味がある。連合軍を主導するアメリカは、「イスラーム国」だけでなく「ヌスラ戦線」と「シャーム自由人運動」もテロ組織に指定しており、連合軍の爆撃がこの両派を利する結果となるような事態は、本来あってはならないことである。中でも、「ヌスラ戦線」はシリアにおけるアル=カーイダの傘下団体であり、連合軍の爆撃により同派が兵站線を維持するという不可思議な事態が生じている。

 アメリカなどは、イラクにおいてもシリアにおいても「イスラーム国」との地上での戦闘の担い手を欠いている。イラク軍は先般のラマーディー陥落で示されたように、戦意も能力も低く、拠点だけでなくアメリカが提供した装備を「イスラーム国」に多数奪われる失態を繰り返している。また、シリアにおいては欧米諸国がシリア政府の正統性を否定し、同政府への支援や協力を頑なに拒んでいる。その結果、アメリカなどはシリアの「穏健な」武装勢力を育成して「イスラーム国」対策に充てようとしているが、「穏健な」武装勢力の育成は遅々として進んでいない。また、仮に何がしかの組織を育成・編成することができたとしても、シリアで活動する武装勢力の末端の構成員は組織に対する帰属意識が著しく低く、目先の状況に応じて安易な移籍を繰り返すことで知られている。

 そうした中で「ヌスラ戦線」や「シャーム自由人運動」のようなアル=カーイダの支部、或いはアル=カーイダと親密な団体さえもがアメリカが共闘する対象となっていることは、アメリカが行う「イスラーム国」対策、ひいては「テロとの戦い」が行き詰まっていることを示している。戦術として、「イスラーム国」とアル=カーイダとを争わせて双方を弱体化させることは合理的ではあるが、アメリカ軍はイエメンやパキスタンではアル=カーイダの重要幹部を相次いで殺害し、「イスラーム国」を利する作戦を行っている一方で、シリアでは「ヌスラ戦線」と共闘するかのような作戦を行っており、このような動きは首尾が一貫しないちぐはぐなものに見える。一方、「ヌスラ戦線」は、5月にジャジーラが放映した指導者のアブー・ムハンマド・ジャウラーニーのインタビューで、「ザワーヒリーの指示により、シリアを欧米諸国への攻撃拠点にはしない」と表明している。また、「ヌスラ戦線」は、トルコやサウジの支援を受けてシリア政府への攻勢を強めている。このように、同派は「穏健な」武装勢力への仲間入りを画策するかのような言動をしているが、こうした行為がイスラーム過激派としての威信の向上や、シリア国内での支持の獲得につながらないことは明らかである。シリア国外の当事者による利己的で無責任とも見られる関与こそが紛争の長期化と混迷の現況であるが、今般のアメリカと「ヌスラ戦線」の動きは、事態を一層深刻化させることになるだろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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