中東かわら版

№29 イスラエル:天然ガス開発と独占禁止法

 5月25日、反トラスト委員会のギロ議長が辞任する意向を表明した。ギロ議長は、2014年12月、イスラエルの天然ガス開発に参加する企業らがガス開発・販売を独占しているとして、開発事業に参加している企業が持つガス田の権益の一部売却と、新たな企業の参入を求めていた。企業側は、ガス田開発事業が動き出した後に、独占禁止法委員会が大きな経済状況の変化がないにもかかわらず、ガス田に関する立場を変えたことに困惑していた。ギロ議長が立場を変えた背景には、イスラエルの経済体制をめぐる国内の考え方の対立がある。

 

評価

 昨年12月に反トラスト委員会のギロ議長が、天然ガス開発での競争強化を打ち出した後、政財界からは、一旦企業と合意したことを政府が大きな経済的理由もなく途中で変更すること、また天然ガス開発が遅れることに対する批判と懸念が表明されてきた。他方、少数の企業が天然ガス開発と販売を独占し、一部の企業家が財をなし、国民に不当に高い値段でガスを売りつけていると懸念する勢力は、ギロ議長への支持を表明していた。ガス田開発に係る関係官庁で構成される委員会が打開案の検討を開始し、2015年に入り2回にわたり企業側と反トラスト委員会に提案を行なっていた。ギロ議長は、この2つの案に反対だといわれ、2回目の仲介案提示の会合(5月中旬)を欠席していた。ギロ議長の考えについては反トラスト委員会の中でも反対があり、同議長は委員会内で孤立しているとも報道されていた。ギロ議長は、8月に公式に辞任する。

 ギロ議長が辞意を表明した翌26日、カハロン財務相は、天然ガスをめぐる決定に自分は関与しないとして、その権限を首相府に渡すことを表明した。カハロン財務相は、その理由として巨大ガス田の一つであるタミール・ガス田の権益の約28%を持つイスラエル企業イスラコ社のオーナーと親しい関係にあることをあげた。クラヌの党首であるカハロンは、選挙戦中及び選挙後でもイスラエル国内での企業による独占体制の打破を訴え、天然ガス開発でも企業の競争促進を主張してきた。カハロン党首は、財務相に就任し、イスラエルの9割以上の土地を管理する土地公社の改革や金融制度の改革を進めようとしており、天然ガス政策に関与しないとの発表は唐突だった。背景はまだ不明であるが、カハロン党首は、財務相に就任してまだ2週間もたたないにもかかわらず、苦しい説明をした上で明らかな公約違反を行なったことになる。

  天然ガス開発に従事する企業は、昨年12月以来、開発事業の凍結や規模縮小を行なって、イスラエル政府の最終的な態度決定を待っている。中東和平問題、対米関係改善などさまざまな政治外交問題に対応することを迫られているネタニヤフ首相だが、エネルギー問題でも決断をすることを迫られている。

(中島主席研究員 中島 勇)

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