中東かわら版

№27 イエメン:国民対話再開に向けた動き

2015年5月26日、イランのザリーフ外相がオマーンを訪問し、同国のアラウィー外務担当相と会談した。会談の議題は「フーシー派も含むイエメンの全ての当事者が参加する政治対話の再開」であり、ザリーフ外相はオマーンを訪問中のフーシー派の代表団とも会談した模様である。イエメン紛争の解決に向けた対話については、国連が5月28日にジュネーブで対話会合を開催する準備を進めていたが、ハーディー元大統領派が対話を始める前に国連安保理決議2216号をフーシー派側が履行することに固執したため、頓挫している。なお、安保理決議2216号とは、フーシー派などが、占拠した政府機関からの撤収や奪取したイエメン軍の兵器の返却を即座に行うことなどを求める内容である。

また、5月18日にはリヤードで「イエメン救済のための会議」と銘打ったイエメンの諸政治勢力(フーシー派とサーリフ元大統領は除く)とGCC諸国との国際会議が開催されている。この会議では、「リヤード宣言」として「正統な」政府の復帰やそれを実現するための国際部隊の編成などを謳った声明が採択されている。

評価

 イエメンでは、5月12日から始まった「人道停戦」が17日に失効し、18日からはサウジ軍などによる空爆が再開した。援助物資の搬入や配布は、サウジ軍などが認める範囲で続いている。そうした中でも、アデン、ダーリウ、フダイダ、サアダなどの各県で、フーシー派、サーリフ元大統領派、南イエメン独立運動諸派、諸部族、そしてイスラーム過激派が戦闘を繰り返している。つまり、3月26日の「決意の嵐」作戦の開始時点で当面の軍事的・政治的目標と思われていた、アデンなどの南イエメンからフーシー派、サーリフ元大統領派を排除し、ハーディー前大統領ら「正統な」政府を同地に復帰させるとの目標は依然として達成されていないし、達成のめども立っていないことになる。

 「リヤード宣言」においても、「イエメンの全ての県・地域に治安部隊を建設する」、「イエメン領内に正統な国家機構が活動を再開するための安全地帯を確立することを急ぐ」、「国連、アラブ連盟、GCCに対し、主要都市の安全確保のためのアラブ合同部隊を編成するよう呼びかける」との内容が含まれている。これらの内容は、イエメン領内にサウジなどが「正統」とみなす政府の機構もイエメン軍も存在しないことを示しているし、イエメンでの紛争に軍事介入した諸国自身が負うべき「正統政府」の復帰のための負担を国連やアラブ合同軍なるものに丸投げするとも取れる内容である。また、『ハヤート』紙等の大手のアラビア語報道機関においては、フーシー派と戦う武装勢力諸派を「(フーシー派の反乱に対する)抵抗運動」、「ハーディー前大統領派に与する武装勢力」との言い回しが用いられており、「正統」なはずのハーディー前大統領派がイエメン国内にほとんど基盤がないことは、関係諸国や報道機関の共通認識となっている。そうした中、イエメン空爆に参加した戦闘機が撃墜される事例が出始めているし、サウジ南部のジーザーンやナジュラーン周辺ではイエメン側からの砲撃により、サウジの軍人・民間人の被害情報が相次いでいる。目標達成の展望を欠いたまま出費や被害がかさむ状況は、本来であればイエメンへの軍事介入に参加した諸国において疑念や批判が生じるべき状況である。

このような状況下で、オマーンを舞台にしてイランやフーシー派をも包摂する対話が模索されていることは非常に重要な動きである。サウジなどが目的達成の手段や展望、ひいてはイエメンや地域の安全保障の将来の構想を欠いたまま、フーシー派、サーリフ元大統領派、そしてイランの排除に固執するようならば、イエメンの国家や社会が蒙る損害が一段と増すことが予想される。イエメン国内の諸当事者だけでなく、イエメンを争点に軍事・外交的な対立の当事者となっている諸国の間で、現実的な合意に達することが、イエメン紛争終結の第一歩となろう。

(主席研究員 髙岡 豊)

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